雨水や汚水の行く先

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下水道と浄化槽の持つ役割の違い

合流式と分流式の下水道

 現在、下水道には合流式と分流式と呼ばれる2つの方式があります。日本で近代下水道がつくられるようになった頃はほとんどが合流式で、生活排水と雨水を同じ管渠で放流するようになっていました。そして下水処理場でまとめて処理してから河川などへ放流します。
 分流式は生活排水と雨水を別々の管渠を使い放流する方式で、雨水はそのまま公共水域に放流し、下水だけが処理場まで運ばれます。分流式の下水道が日本で最初に計画されたのは昭和9年(1934年)で、清流長良川が流れ、鵜飼で有名な岐阜市でした。ところが日中戦争など社会情勢の変化によって、工事が完成したのは昭和18年(1943年)でした。
 日本は年間降雨量が多く、しかも大都市の多くは海に近い海抜の低い場所に形成されています。東京、名古屋、大阪などは江戸時代や明治時代に干拓された土地が多く、そうした場所に人が集中しているといった事情から、雨水対策は大きな課題であったのです。そのため、合流式下水道が広く普及したのは、自然の成り行きであったともいえるかもしれません。
 このように日本の近代下水道の歴史を見ると、最初は市街地の雨水と生活雑排水の排除を目的としてつくられ、やがていまでは当たり前のように思われているし尿の処理も一緒におこなうようになってきたのです。

大曽根雨水調整池(総貯留量34,000m3)(写真協力:名古屋市上下水道局)

合流式と分流式の違い

 合流式下水は家庭から排出される全ての生活排水と、雨水や駐車場や道路で洗車の水など、屋外で使用された水などを集めて下水処理場へと流します。雨量が多い時は生活排水が適度に希釈されるので、処理場にそれほどの負担をかけず、放流水質は比較的良好となります。ただし、雨水と生活排水の両方を処理することになるので、かなりの規模の処理場が必要になってきます。ところが雨量が多くなると処理場では処理しきれなくなり、十分に処理されないまま公共用水域へ放流しなければならなくこともあります。時には汚水と一緒になった雨水の一部を処理場までの途中で未処理のまま放流する場合も出てきます。そのため、最近は処理場までの途中の地下に大規模な貯留池を設け、大雨の時に下水を一時的に溜め、雨が収まった後に下水処理場へ送るような施設もつくられています。合流式は雨水と生活排水を同時に流すため、管渠の径は太くなりますが、下水管は1本ですみ建設費は安くつきます。
 一方、分流式下水道は雨水用と生活排水用の管渠を2本別々に設置するため公共用水域へ未処理のままの生活排水が流れ込むことはありませんが、建設費は高くなってしまいます。また道路の幅が狭いと、2本の管を埋設することが困難となります。

分流式の下水は汚水と雨水に分かれています。汚水は臭気を放つため、マンホールの蓋に孔がありませんが(写真左)、雨水は一度に大量の雨が流入すると管渠内の空気がマンホールの蓋を押し上げるのを防ぐため蓋に孔があけられています(写真右)。(写真提供:名古屋市上下水道局)

水質保全を目的に合流式から分流式へ

 河川の汚れが深刻な社会問題となってきたのは昭和30年代です。昭和33年(1958年)には公共用水域の水質の保全に関する法律(水質保全法)と工場排水等の規制に関する法律(工場排水法)が制定されます。
 明治時代につくられた旧下水道法は昭和34年(1959年)に現行の下水道法の施行にともなって廃止されました。現行の下水道法では下水を「生活もしくは事業(耕作の事業を除く)に起因し、もしくは付随する廃水(以下「汚水」という)又は雨水をいう」とし、下水道を「下水を排除するために設けられる排水管、排水渠その他の排水施設(かんがい排水施設を除く)、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設(屎尿浄化槽を除く)又はこれらの施設を補完するために設けられるポンプ施設その他の施設の総体」としています。旧下水道法も現行の下水道法も、雨水を下水の中に含めています。ただし決定的に異なっているのは、し尿を汚水に含めるかどうかということと、下水の処理をおこなうかどうかです。
 昭和42年(1967年)には公害対策基本法が、昭和45年(1970年)の公害国会では水質汚濁防止法が成立します。こうした流れを受け、昭和45年(1970年)に下水道法が改正されました。改正前の下水道法は都市の環境整備と共に、雨水などによる都市の浸水防止が重要な課題で、合流式下水道が前提となっていました。それがこの時の改正によって公共用水域の水質の保全も目的とするように改められました。雨水と生活排水とを分けることで大雨の時に未処理の生活排水が公共用水域に流入しないようにしようということです。その後も昭和53年(1978年)に、総量規制制度の導入、昭和59年(1984年)に、湖沼水質保全特別措置法(湖沼法)が制定されるなど、水質保全に下水道が果たす役割は大きくなっていきました。
 こうして公共用水域の水質保全が下水道の役割として位置付けられてからは分流式が多くなり、現在、全国の下水道を整備している市町村のうち、いまも合流式を採用している市町村は約1割となっています。

人口密度が少ないほど高額になる下水道の建設費用

 住宅が新しく下水道へ接続する場合、汚水ますや接続ますといった宅地内の工事は個人負担となります。下水道本管までの距離などの条件や工事業者によって工事費用は様々ですが、平均的には数10万円のようです。工事そのものもそれほど困難なものではありません。
 ところで全国の下水道普及率は都市部に限れば100%近くとなっていますが、全国では約76%です。下水道を整備するための費用のうち、多くが下水処理場ではなく管渠の建設費で、総建設費の約80%を占めています。全国平均を見ると管渠を1km建設するためにかかる費用は1.6億円です。10m当たりでは160万円となります。そのため同じ長さの管渠を建設する場合、住宅戸数が少ないほど、1戸当たりに掛かる建設費は高額になってしまいます。下水の浄化処理にかかる費用は下水道料金として徴収されますが、その費用は全国ほぼ同じです。人口が少なければ下水道使用料金の徴収額も少なくなってきます。しかも計画から実施まで、長い時間がかかります。
 つまり、人口密度が低い地域ほど、下水道建設にかかる費用が高額となるのです。しかも多くの地方財政は逼迫しています。そのため、将来的にも下水道整備計画がない地域もあります。

人口4,100人の長野県下伊那郡下條村では、汚水処理対策に下水道ではなく合併浄化槽を選択しました。村の汚水処理人口普及率は95%になっています。

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