静岡県を代表する富士山湧水群域である静岡県三島市は、その豊かな水資源を求めて早くから人が住み着き、伊豆の玄関口として発展してきた街です。富士山に降り注ぐ年間約22億トンと推定される雨や雪が解けると、地下水となり、やがて溶岩の隙間から湧き出てきます。三島市では中心市街地にある楽寿園小浜池、菰池(こもいけ)公園、白滝公園、浅間神社を湧水源に、源兵衛川、蓮沼川、桜川、御殿川の4つの川が、幹線用水路または農業用水路として市内をめぐるように流れており、この4本の水路に挟まれた「三つの島」が「三島」という地名の由来という説もあるようです。かの松尾芭蕉が三島を訪れ、「あじさいや 三島は水の 裏通り」と詠んだことからも、街中をせせらぎが毛細血管のように縦横無尽に流れ、川の中に点在する島に人が居住していた様子がうかがえます。富士山からのたっぷりの恩恵を授かって育まれてきた土地、それが三島なのです。
かつて三島の一大湧水地だった白滝公園。足元には溶岩が露出し、あちこちに富士山からの地下水が湧き出し、菰池からの湧水と合流して桜川になります。
市内を流れる水量豊富な川は、昔から三島市民の生活と文化の中心でした。三島の人々は、川に沿って住宅を建て、川の水を家の中まで引き込んで生活用水として使用していました。水辺は水仕事をする主婦たちで賑わい、川に面した家には岸辺に張り出した川端(かわばた)があり、風呂の水を汲み、野菜を洗い、洗濯にも利用されていました。また、食べ物が腐りやすい夏の時季には、川端の杭にフネ(ブリキなどでできた川に浮かべる食料保存箱)を結び付けておくなど、天然の冷蔵庫としても重宝されていました。
また、子どもたちにとって川は最高の遊び場であり、自然との付き合い方を学ぶ水辺の学校でもありました。気軽に川遊びや魚とりを楽しむだけでなく、水深が1mにもなる川の中をまるでプールのように自由に泳ぎ回っていました。しかし、富士山の雪解け水は、水温約15℃の冷水です。体が冷えてくると水からあがって道路上に寝そべり、仰向けになって太陽の光を受けて体を温める、そんな子どもたちの姿が日常的に見られたようです。
水中一面には三島梅花藻(みしまばいかも)が咲き乱れ、その中をハヤが泳ぎ回り、初夏になるとホタルが川面を乱舞する幻想的で美しい風景。子どもから大人まで、三島市民にとって水辺と暮らしは表裏一体の関係にあり、その原風景は、三島っ子の心と体に深く刻まれています。