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世界中で、酒を持たない民族はいないといわれています。イスラム教など酒を禁止している国もありますが、過去には酒を造ったことがあるといわれています。酒といっても原料や製造方法によっていろいろな種類があります。酒税法では医薬品を除き、アルコール分が1%以上ある飲料を酒類と定めています。では、ビールとはどのような酒でしょうか。
エジプト・ルクソールのセンネジェムの墓壁画。オシリス神への供物の図。 古代エジプトでは、パンとビールは祭祀には欠かせない供物でした。同時に賃金としても使われていました。たとえば、役人には壷360杯分のビール、900個の白パンなどが年俸として支払われ、ピラミッドの建設に従事した者にもビールが配られたと記録されています。 |
ビールの歴史は古代エジプトから |
人はなぜ酒を飲むのでしょうか。酒は誰が、いつ、どのようにして発明したのでしょうか。おそらく何らかの偶然によって発酵した食品の汁を飲んだ人が、平常とは異なる気分を味わい、儀式のときなどに欠かせぬものとなっていったのでしょう。つまり、特定の人が発明してそれが世界中に広まっていったというのではなく、人が住んでいるところすべてで酒が造られるようになったと思われます。事実、地球上にはさまざまな酒の造り方があり、それぞれの地域独特の酒があります。
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半焼にしたパン
古代エジプトでビールを造ったパンは、おそらくこうした感じのものではなかったかと思われます。
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酒の種類は原料ではなく造り方で大きく3種類に分けられます。まず日本酒やビール、ワインなどの「醸造酒」です。米、麦、ぶどうといった穀物や果物を発酵させた酒で、造り方としては最も古くからある方法です。次が醸造酒を蒸留した「蒸留酒」で、ウイスキー、ブランデー、焼酎などが挙げられます。そしてもう一つが、これら醸造酒や蒸留酒に植物などを浸した、いわゆるリキュールといわれる「混成酒」で、梅酒などはよく知られています。
これらの酒の中で、製造方法が最も古くから記録として残されているのが、紀元前3,000~2,500年のメソポタミヤや古代エジプトのビール造りだといわれています。当時のビールは、まず、麦を粉に挽いてパンを焼き、このパンをほぐしてお湯で溶かし、瓶の中で発酵させただけのものでした。
現代におけるビールの造り方は、まず大麦を発芽させて乾燥させます。これを「麦芽」といいます。次に麦芽を粉にしてお湯を加えて濾過し、甘い「麦汁」にします。この作業を糖化と呼びます。麦汁に「ホップ」を入れ、「酵母で発酵」させればビールのでき上がりです。
麦芽をビール造りに適した麦汁にするには、麦芽を粉に挽いてお湯を加えるだけではありません。麦芽を麦芽糖とブドウ糖に順序よく分解していかなければならないのです。そこで、それぞれの分解工程に合わせ、温度を一定時間づつ保ってやらなければなりません。これは温度計などがなければ、かなり難しい作業だといわれています。ところが古代エジプト人は麦芽を一度パンに焼いてからお湯で溶かすことによって、ビール用の麦汁を造っていたのです。酵母菌によってアルコール発酵させるのは、古代エジプトも現代も基本的には同じですが、酵母菌そのものが発見されたのは19世紀になってからです。こうして見ると、古代のビールが現代のビールと基本的に大きく違っていたのは、ホップが入っていないだけとも言えるのです。
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昔のビールには入っていなかったホップ |
ドイツでは法律によってビールは「原料に麦芽とホップと水だけを使ったもの」と決められているように、いまではホップの入っていないビールなど考えられません。ところが、このホップは西アジアが原産地とされる寒冷地の植物です。しかも、ビールにホップが加えられるようになったのは、8世紀頃からとされています。
ホップは蔓性の多年草で初夏に淡黄色の花を咲かせます。この雌花だけを麦汁の中へ入れ、煮沸します。こうすることによって、あのビール独特の苦味と香りが醸し出されるのですが、ホップの働きはそれだけではありません。酵母の働きを助け、透き通った色にして、泡立ちをよくするのです。しかもビール酵母以外の微生物の繁殖を抑える働きもあるのです。
ホップが使われていないビールは泡も十分立たず、現在とはかなり異なる味であったようです。では、ホップを使う前はどうやって味をつけていたのでしょう。蜂蜜やさまざまな植物を入れ、少しでもおいしいビールを造ろうと試みられていたようです。そうした植物の中の一つとしてホップが使われ、広まっていったのです。
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左/大麦
大麦にもいろいろな品種があり、現在のビール造りに使われているのは、主に二条種大麦、六条大麦などです。
右/ホップの花
ホップは原産地が西アジアの山岳地帯といわれる蔓性の草です。以前は日本でも栽培されていました。ときどき山の中などに野生化したものが生えています。ビール用には受精する前の雌花だけを使います。
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