水の話
 
ビールの味を決めるもの

安城デンビール  ビールの原料といえば大麦(麦芽)、ホップ、水が基本です。それぞれの原料の品質と製造過程によってビールの味は決まります。ところが、日本では大麦もホップもほとんど生産されておりません。この二つの原料は輸入に頼っているといってもいいでしょう。ところが、地ビールはそれぞれ個性的な味を売り物としています。なぜ、違った味のビールができるのでしょう。
写真:安城デンビール(株)

健康にもいいビール酵母
 ビールはまず麦芽から甘い麦汁を作ることから始まります。麦芽というのは、大麦を発芽させて乾燥したものです。発芽によって、デンプンが糖に変わるのです。この麦芽を煮て甘い麦汁を作り、その中に酵母を入れて発酵させます。
 酵母というのは、大きさが4~7ミクロン(1ミクロンは1,000分の1ミリ)の菌の仲間で、糖分を栄養にして増殖します。そして、糖を分解して水とアルコールに変えるのです。例えば、アルコール分5%のビールをつくるのに、麦汁1リットルに1,000億個の酵母が必要とされています。酵母は一般に供給される糖類の半分をアルコールに変えるとされます。熟した甘い果物には、約10%の糖分が含まれています。これを上手に発酵させれば5%のアルコール分を作ることができることになります。そしてアルコールが作られるとき、同時に二酸化炭素も作られます。
 
 日本酒でも清酒になる前のいわゆる濁り酒には舌にピリッとした感じがします。あれは二酸化炭素が含まれているからです。パンにも酵母が使われますが、この場合は二酸化炭素の気泡で膨らませるためです。ビールの泡も二酸化炭素ですが、発酵の過程で密閉し、加圧しないと、空気中へ拡散してしまいます。ということは、エジプトなどで造られていたというビールはほとんど泡のないビールであったということです。
 
 商品としてビールを出荷するときは酵母を除去します。酵母が残っているとビールの品質を損なうためです。ビンや缶に詰められたビールの中はガス圧が高く、アルコールもあるため、酵母は残っていても増殖しにくい環境ですが、高温(20~30℃)の状態で放置しておくと酵母が自家消化を起し、細胞が崩れ、中のものが溶出してビールに濁りが生じてしまうからです。しかし、酵母は人の健康にいいと言われています。胃腸の働きをよくしたり、活性酸素を取り除く作用もあるといわれ、実際に薬品としても使われています。
 ところで、シャンパンやコーラなど二酸化炭素の入った飲み物はたくさんありますが、グラスに注いでも泡はすぐに消えてしまいます。しかしビールの泡はすぐには消えません。これはホップに含まれている成分が作用しているからです。

ビールの製造工程 (「ビールのはなし」技報堂出版より改編)
ビールの製造工程


ビールの製造工程

日本の酒税法によると、ビールは麦芽、ホップ、水を原料に発酵させたアルコール分1%以上の飲料です。ただし、副原料として、米、トウモロコシ、コーリャン、馬鈴薯、でんぷん、糖類を使っても良いとされていますが、これら副原料は麦芽の重量の10分の5未満とされています。また、最近人気の発泡酒は副原料が10分の5以上使われているか、政令で定められていない副原料を使用したものを指しています。発泡酒は酒税法上ではビールといえませんが、味もアルコール分もビールとほとんど変わりません。

ビールに及ぼす水の役割
 ビールは一般にほろ苦いと表現されます。それ以外に美味しさの表現としてはコク、キレ、喉ごしといった言い方があります。ところが、苦味の他はいわゆる味そのものというよりは、感覚に近い表現です。
 ビールの味は原料である麦芽、ホップなどの品質と製造方法によってかなり左右されるはずです。しかし、いまの日本では大麦もホップもほとんど作られてはおりません。そのうえ、大麦は麦芽に、ホップもペレットのようなものに加工されたものが使われています。日本には2百数十社の地ビールメーカーがあるといわれていますが、自前の麦芽やホップを作ることができるほどの大きな地ビールメーカーはほとんどありません。
 となれば、どこの地ビールも同じ味かといえばそうではありません。むしろ個性的な味を競いあっているのです。ビールを作るのに多くの水が使われるといわれています。ただし、麦芽の製造、容器や器具の洗浄といったものも含めてです。その中で、ビールの味に直接関係する醸造水は麦汁を作るのに使われる水です。ビールのアルコール度数は大体5~6%ですから、約95%は水から作られているといってもいいのです。つまり、水が味に及ぼす影響は大変に大きいのです。
若ビール
ビールは生き物です。品質の保持のため、発酵中のいわゆる「若ビール」の糖度やpH値を測定します。これらの数値は各地ビールメーカーやビールの種類によっても異なっています。
PH計
 日本の水は美味しいといわれていますが、それでも、地域によって含まれる成分が違い、味も微妙に違います。この水に含まれる成分の違いが、さらに酵母の働きにも影響を与え、ビールの味を個性的にするのです。
 一方、水の味が違うとかえって不都合になる場合もでてきます。全国各地に工場を持ち、統一ブランドで販売する飲料水などです。生産地ごとに味が違うと、消費者からのクレーム対象となるからです。そのため、いろいろな方法を使い、水に含まれる成分がどの工場でも同じになるよう調整しなければならなくなるからです。

通常の麦芽 キャラメル麦芽 ロースト麦芽
麦芽の煎り方によってもビールの味は変わってきます。左から通常の麦芽、キャラメル麦芽、ロースト麦芽。ロースト麦芽はいわゆる黒ビールを造るときに使われます。

写真:南信州ビール(株)
ペレット状のホップ

上/ ペレット状になったホップ。今では日本ではほとんどホップは栽培されていないので、加工品を輸入しています。
右/ 試験管で培養されたビール酵母。
試験管


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