水の話
 
不思議な酸性湖
湖岸の長さ約50km、面積約103km2、猪苗代湖は福島県のほぼ中央に位置する日本で4番目の大きさを誇る湖です。環境省が毎年発表している公共用水域水質測定結果では2002年度から4年連続で湖沼の水質(COD)が全国1位となっています。

磐梯山によってつくられた湖
 東の空が少しずつ明るさを増していき、夜の闇に溶け込んでいた湖面が目の前に広がります。対岸の奥に見える山との境もはっきりと確認できるようになってきます。遠くにひと際目立つ山が姿を現しました。磐梯山です。
磐梯山は数十万年前から噴火を繰り返しながら形成された火山です。火山は地下のマグマの上昇や噴出によって成長していきますが、地震や火山活動によってしばしば山崩れを起こして姿を変えていきます。磐梯山の標高は1,819mですが、数万年前までは富士山よりも高い山だったといわれています。頂上は一つだけではなく、いくつもの峰によって形づくられていました。
猪苗代湖の原型はいまから20万~30万年前に二つの断層に挟まれた地域が陥没して形成されました。さらに8万年ほど前に古磐梯と呼ばれる山の噴火によって流路が塞がれ湖は大きくなりました。その後も火山活動による泥流の堆積や浸食が繰り返されて約2万年前に現在の猪苗代湖が形成されました。 
磐梯山の噴火活動は806年(大同元年)と1888年(明治21年)の2回記録されています。1888年の噴火は大規模なもので、峰の一つであった標高1,800mの小磐梯山が吹き飛ばされました。このときは溶岩を流出させる噴火とは違い、マグマに含まれている水分が熱せられて起きる水蒸気爆発でした。その結果、大きく吹き飛ばされた山体の北側に馬蹄形のカルデラが形成されました。磐梯山の北側は磐梯高原と呼ばれる標高800m前後の美しい高原で大小合わせて約300の湖沼群が点在しています。磐梯山の噴火は多くの犠牲者を出しましたが、その反面美しい自然の景観をつくり、冬は良質の雪を求めてスキーヤーが訪れています。これらの湖沼群は1888年の噴火のときに発生した土石流でせき止められた川によってつくられたものです。桧原(ひばら)湖、小野川湖、秋元湖は磐梯三湖といわれ、これらの湖に挟まれて点在する大小40余りの湖沼群を総称して五色沼と呼んでいます。
見祢(みね)の大石
1888年の噴火のとき、村々を襲った土石流は多くの人命を奪いました。長さ9m、幅6m、高さ3mもある「見祢(みね)の大石」はその土石流で5kmも先から運ばれてきました。

磐梯山
磐梯山は深田久弥の「日本百名山」の一つに選ばれています。猪苗代湖の側から見た磐梯山は表磐梯とも呼ばれています。

桧原湖
湖岸の長さ31.5kmの桧原湖は裏磐梯地域で最大の湖です。1888年の磐梯山の噴火で川がせき止められてできた湖で、湖底には桧原村がありました。湖岸からは裏磐梯山の噴火した跡もよくわかります。


沼ごとに異なる神秘の色
 五色沼は名前の通り赤銅色やコバルトブルー、エメラルドグリーンなどそれぞれ微妙に異なる色彩を持ち、さらに見る角度、時間、天気、季節によっても色彩を変化させます。水の色が沼ごとに異なるのは、沼底に沈殿した鉱物や沈水植物の影響です。
磐梯山の北側には1888年の大噴火で小磐梯が吹き飛ばされた時の火口の底に水が溜まってできた茶褐色をした銅沼(あかぬま)があります。五色沼へはこの水が地下を通って入っているといわれています。五色沼には鉄、アルミニウム、マンガン、カルシウム、硫酸などがイオンの形でたくさん含まれています。これらのイオンは水の中に細かい粒子となって含まれています。粒子に太陽光線が当たると波長の違いによって光を反射したり通過させたりします。水中に含まれるイオンの種類や粒子の大きさの違いによって、水の色も変化します。
これらの湖沼の水はさらに酸性という特徴があります。五色沼の中で一番大きくコバルトブルーの色をした毘沙門沼のpHは6.3、青白い色をした弁天沼のpHは4.9、水深11mで透明度が10mの鮮やかなコバルトブルーの瑠璃沼のpHは4.5、青沼のpHは4.4などとなっています。pH4~5の強い酸性を示す弁天沼、瑠璃沼、青沼には湖底に生えるセンタイ類のウカミカマゴケとアシ以外の水生植物はほとんど見られません。一方、弱酸性の毘沙門沼などでは酸性を好むフトヒルムシロやフサモなどが生育しています。

五色沼
五色沼は1888年の磐梯山の噴火によってできた湖沼で、多くは酸性の水質をしています。そのうちの毘沙門沼は裏磐梯を代表する風景の一つとされていますが、この沼はそれほど強い酸性ではありません。


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