水の話
 
海苔の育つ海

貝殻の中で夏を過ごす海苔
海苔の胞子 海苔の収穫時期は秋から春先にかけてです。この時期に収穫されるのは葉状体(ようじょうたい)とよばれる葉っぱ状の部分でこれが食用となります。春になり葉状体が十分に成熟すると、雌雄の胞子がつくられ海の中を漂いながら接合します。接合した胞子は果胞子(かほうし)とよばれ、主にカキなどの貝殻に付着します。そして糸状体とよばれる細い糸のような枝を貝殻の中へ伸ばし、そこで成長して夏を過ごします。夏の終わり頃になると糸状体(しじょうたい)の先に再び胞子をつくり、秋になって水温が下がると貝殻から飛び出し、岩や流木に付着して発芽し葉状体を成長させます。このときの胞子を殻胞子とよびます。こうした海苔の生活史が解明されることによって、初めて人工タネ付けが可能となりました。
人工タネ付けは2月~3月頃に水槽の中で葉状体となった海苔をカキ殻に巻き付けるなどして胞子を付着させることから始まります。ただし最近ではあらかじめ培養しておいた糸状体を貝殻に直接散布する方法が増えています。この培養して保存可能な糸状体をフリー糸状体とよんでいます。秋になって水温が下がる頃、今度はカキ殻から海苔網にタネ付けを行います。以前は海に張った海苔網の間に筏を組みカキ殻を吊るしてタネ付けが行われていました。海上でのタネ付け作業は胞子が放出される最適な水温に合わせなければならず、タネから発芽してもその後の成長は気象条件に左右されます。
そこで最近は陸上でのタネ付けが行われています。海苔の胞子が付いたカキ殻を水槽に入れ、その中で海苔網を巻き付けた大きな水車を回転させます。1枚の長さ18メートルの海苔網を30枚ほど重ねて10~15分程度回転させます。胞子が網に付着したかどうかは、網の一部を切り取って顕微鏡で確認します。網に付着した丸い胞子は数時間で卵形に成長します。水槽の水温は殻胞子の放出が盛んになるように調整します。水温が高ければ氷を入れ、低ければヒーターなどを使い温めます。こうして海上とは違い、安定的にタネ付けが行えるようになりました。陸上で人工タネ付けをした海苔網は、マイナス20℃以下の冷凍庫に保管されます。海苔は多糖類が含まれているためマイナス30℃くらいまでなら凍ることはありません。
冷凍保存をする目的は生産調整です。海苔網を張る時期を何回かにわけて張ることによって生産期間を延ばすことが可能になるからです。また海苔網は一度海に張ってしまうと後はお天気任せです。水温が急激に変化したり、台風に襲われたり、病気にかかることことがあるかもしれません。そんなときも冷凍保管しておいた網と張り替えることによって生産を安定させることができます。陸上でタネ付けをした海苔網を海水温が約23℃になると海に張ります。こうした人工タネ付けができるようになり海苔の生産量は大きく延びました。

カキ殻 顕微鏡で確認 冷凍保存
糸状体を成長させたカキ殻(写真上左)を水槽に入れ、その中で網を水車のように回転させてタネ付け(写真下)を行います。網にタネが付いたかどうか、顕微鏡で確認(写真上右)します。 タネ付けの終わった海苔網は袋に入れて冷凍保存します。
タネ付け


消えつつある浜辺の風物詩
 海面に張られた海苔網が水面の上に現れている風景を見かけることがあります。これは支柱式養殖と呼ぶ方法で満潮時には水中に没しますが、干潮時にはわざと空中に網をさらすようにします。こうした網を空気中にさらして乾燥させることを干出(かんしゅつ)といいます。干出をすると海苔以外の藻類を取り除き、芽が丈夫になるといわれています。干出は支柱を立てて海苔網を張らなければ行えないため、海苔養殖ができるのは遠浅の海に限られます。以前は支柱を立てるのも大変な作業でしたが、いまではポンプの水圧を利用して海底に穴をあけ、そこへ支柱を差し込みます。しかし、ある程度まで育った海苔は干出の必要がないことがわかり、最近では支柱を立てずに海苔網に浮(ウキ)を付けて海面に浮かべておく浮き流し養殖という方法も行われています。この方法ならば支柱を立てることができない深い海でも海苔養殖が可能となり、新しい海苔の漁場も開拓されています。同時に海岸沿いに海面から海苔網が姿を現す風景が見られなくなったところもあります。
海苔の葉状体が20cmくらいに成長すると収穫が始まります。40~50年前までは海苔網にタネ付けをして収穫できるようになるまで60日ほどかかりました。いわゆる初海苔とか新海苔が出荷されるのは正月過ぎでしたが、養殖技術の進歩で現在は収穫までの期間がほぼ半分に短縮しています。早い産地では10月の下旬、遅い産地でも12月上旬に収穫が始まります。また、一度収穫した海苔網をそのまま海に張っておいても15日ほどで再び新しい芽が出て収穫が可能になります。こうして同じ網から数回の収穫を繰り返します。しかし何度も収穫をすると海苔の品質が落ちてきます。そこで冷凍保存しておいた新しい海苔網と張り替えます。収穫は4~5月頃まで行われます。
収穫した海苔を乾海苔に加工するためにはきれいに水洗いしてから細かく切断します。ミンチ状になった海苔は紙を漉くようにして海苔簾(す)の上に1枚ずつ成形していきます。このとき海苔はまだたくさんの水分を含んでいるので1枚の重さは約300gです。さらに脱水、乾燥、検品などほぼ全ての工程が機械によって自動的に行われます。こうして出来上がった海苔1枚の重さは約3gです。海苔は10枚を単位として帖という数え方をします。1帖なら10枚、2帖なら20枚になります。
かつて海苔簾を天日で干す光景は冬の風物詩でしたが、いまではそうした光景を見ることはほとんどできません。海苔養殖が減ったからではありません。養殖技術や海苔を加工する機械の発達などによるもので、生産量はいまや年間で約100億枚にも達しています。

海苔の採取 海苔の採取 海苔の採取
以前は成長した海苔を手で摘み取っていましたが、いまでは海苔網を船の上に被せるようにして、自動的に採取します。

製造工程 製造工程 製造工程
製造工程 製造工程 製造工程
収穫した海苔は洗浄、切断された後、濃度を調整しながら海苔簀の上に漉かれ、乾燥、不純物混入の有無、包装などほとんど全ての行程が自動的に行われます。


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