山村の活性化と排水処理

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「湯水のごとく使う」の意味を考える

山村がなくなれば森林も荒れる

 中山間地域では都市部や平地農業地域に比べ人口の減少が著しく、高齢者の割合も高くなっています。中山間地域の面積は国土面積の約65%を占めていますが、人口が占める割合は全国の約13%です。しかも65歳以上の高齢者が占める割合は約30%で、全国平均の1.5倍となっています。
 森林面積も中山間地域で全国の森林面積の約80%を占め、耕地の割合は8.4%と少ないにもかかわらず、全国の耕地面積の約43%、農業人口の約40%にも及んでいます。小規模で零細な農家が多いということです。さらに、人口の流出と高齢化によって、集落が減少しています。その結果、耕作放棄地も増えています。農地ばかりか森林も放置されています。人口減少によって山林の管理が行く届かなくなれば森林がもっているさまざまな機能が損なわれてしまいます。
 ところで、高度成長期やバブル景気の時代に、さまざまな開発によって日本の森林は減少したように思われています。ところが過去40年間、国土面積に対する森林の割合は約7割で、ほとんど変化をしていません。それ以前に比べると、逆に森林の面積は増加しています。戦争中に燃料として使うため多くの木材を伐採したからです。そこで昭和20年代から30年代にかけて山林への植栽が盛んにおこなわれました。こうして森林の面積は増えていきました。
 森林の持つ多様な機能を持続させるためには山の管理が必要不可欠です。森林の保護を訴えるのは簡単ですが、山の管理をおこなえる人が減少しています。例えばスギやヒノキといった人工林は、木を植えてから伐採するまでの間、林内の下草刈、除伐、間伐、枝打ちなどが必要です。
 また森林所有者が森林のある村に住んでいない不在村者が、私有林のうち4分の1を占めています。しかも不在村者は山の管理を共同でおこなう森林組合に加入していないケースが多く、そうした山林の手入れは思うように進みません。そこで森林・林業に関わる人々が山村に定住し、林業の活動等に安心して取り組むことができるよう、山村の活性化を図ることも大切になってきます。

戦後、山には多くの木が植えられましたが安い外国産の木材が輸入されるようになり、国産材の需要が減少し、山の管理も行き届きにくくなってしまいました。

定住策は生活環境の整備から

 中山間地の森林は水源地として重要な役割を持っています。水源を守るには森林の管理と同時に、中山間地の排水処理も大きなテーマとなっています。現在、全国の下水道普及率は75.8%です。これに浄化槽などを含めた汚水処理人口普及率は87.6%となっています。残りの12.4%は、生活排水が未処理のまま川などに放流されていることになります。
 下水道普及率の1位は東京都で99.3%、2位は神奈川県の95.9%です。下水道が敷設されていなくても合併浄化槽が設置されているのであれば生活排水は処理されるのですが、問題は下水道も合併浄化槽もない地域です。神奈川県の場合、都市部では下水道の普及率は高くなっていますが、県内の19市13町1村のうち、市部の下水道普及率は91.7%ですが、町村部は76.0%と地域によってかなりの開きがあります。しかも県内には合併浄化槽の4倍以上の約1万5,000基の単独浄化槽が使われています。
 下水道普及率は人口密度の少ない中山間地ほど低くなる傾向があります。しかも単独浄化槽の割合も高くなっています。汚水処理施設が普及していない地域に暮らす人の数は全国で約1,500万人以上にものぼります。しかもそのほとんどが人口5万人以下の中山間地域です。また下水道の整備が予定されている地域でも、計画がなかなか進んでいないのが現状です。そのため水源地域の水を生活排水による汚れから守るため、合併浄化槽の普及に力を入れている自治体が増えています。
 さらに中山間地域に人々が定住してもらえるようにするには生活環境を整えることが重要です。医療や教育、買い物ができる施設などが充実していないことも、人が中山間地域から離れる原因の一つになっています。企業を誘致するためにも、その地域で安心して快適に暮らせる環境を整える必要があります。
 ところが、いま地方の財政は逼迫しています。さまざまな公共設備を整備したくても、そのための予算を思うように賄えなくなっています。

急傾斜の山肌につくられた集落であっても、生活排水処理は必要です。

常に水害を意識した暮らし

 下水道整備が進みにくい理由の一つが建設コストです。下水道は各家庭などから管渠を通して処理場まで下水を流します。このうち一番費用がかかるのが管渠の敷設費で、総建設費のうち約80%を占めています。全国の平均で見ると、管渠1km当たりの敷設費は約1.6億円で、一人当たりに換算すると約6.3mで敷設費は約102万円です。
 ただし、下水道を整備する地域の人口密度によって建設費は変わってきます。中山間地域の様に人口密度が低い地域では、一人当たりにかかる建設費は多くなり、都市部のように人口密度が高ければ、逆に一人当たりにかかる建設費は少なくなります。
 さらに公共下水道の1m³当たりの汚水処理原価の平均は人口規模が3万人の市町村では253円、1万人では363円、1万人以下では451円と人口規模が少なくなるほど高くなっています。ところが市町村民が負担する下水道使用料金は人口規模に関係なく、ほぼ同じです。
 人口の少ない市町村になればなるほど、建設コストや維持費の負担が増してしまうため、下水道整備を進めたくても、思うようにはかどりません。建設計画を立ててから、処理場や管渠の建設が終了して、住民が使用できるまでの期間も長くかかります。こうしたことが中山間地域で汚水処理人口普及率が低くなっている大きな原因です。
 地域に暮らす人々の生活を快適にするための整備が自治体の負担になってしまうと、地域の活性化も難しくなってきます。都市にとっても大切な水源地域の森林を守るには、何よりも中山間地域の活性化が求められています。

下水道も合併処理浄化槽も普及していないと、生活排水は未処理のまま近くの水路に放流され、上水道の水源となる川を汚すことになってしまいます。

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