水の話
 
和紙が和紙である理由
浅瀬の冷たい水の中で晒され、流れに揺らめく和紙の原料。それはいまだ木の皮そのものです。
水に晒(さら)された後、何段階もの工程を経て、樹皮は柔らかな風合を備えた美しい紙へと変身していきます。
紙が日本へ伝えられたのは今から千四百年も前。その後、あらたな原料の発見や製紙技術の改良により、日本独特の和紙が作り上げられていきました。

1,400年前に伝えられた製紙技術
 英語のPaper(ペーパー)の語源がパピルスだということは広く知られています。これは、エジプトのナイル河畔に生えている葦と似た植物の茎を薄く裂いて並べシート状にしたものです。一方、日本語の紙の語源は簡(かん)だとされています。簡とは、木や竹を薄く削って板状にした札で、奈良などの遺跡からは文字の書かれた木簡がたびたび出土しています。また、中国では絹の布に文字を書いていたところから、紙という「糸偏」のついた文字が生まれたといわれています。ヨーロッパでは、羊の皮を利用した羊皮紙が使われていました。いずれも文字などを記録するために使われていましたが、正式には紙と呼べるものではありません。つまり、紙は「漉く(すく)」という工程を経たものにつけられた名前だからです。
紙を最初に発明したのは中国で、前漢の時代(紀元前1~2世紀)だとされています。当時、紙の原料となっていたのは、使い古したボロ布でした。中国で発明された製紙技術がシルクロードを通り、ヨーロッパに伝えられたのは12世紀になってからです。
日本に紙が伝来したのは西暦285年で、百済から王仁(わに)が論語十巻、千字文一巻を献上したのが最初とされています。製紙技術は、推古天皇18年(610年)に高麗の僧・曇徴(どんちょう)が伝えたとされていますが、実際には朝鮮半島を経て、もっと早くから伝えられていたのではないかともいわれています。

和紙独自の流し漉き法
 伝統の技を使い、手漉きによって作られた和紙、そんな表現がよく聞かれます。しかし、漉くといっても「流し漉き」と「溜(た)め漉き」があり、手漉き和紙の多くは流し漉きによって作られています。一方、機械で作る和紙や西洋の手漉き紙は溜め漉きによって作られています。
中国で最初に紙が発明されたときの作り方は溜め漉きでした。木綿や麻などのボロ布を臼などの中で水を加えて叩(たた)きほぐし、それを絹を張った漉き簀(す)ですくい、水を切って乾かしたのです。日本に最初に伝えられた製紙技術も溜め漉きでした。原料も麻が使われていました。しかし、麻の繊維は長く、紙を作るときに細かくしなければなりません。その後、700年代の初めには、楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)などが原料として使われるようになってきました。
雁皮には、粘り気のある物質が含まれていたため、楮と一緒に原料に混ぜて使うと上質の紙となりました。そのことが和紙を漉くときに糊状のものを入れることの発明につながったともいわれています。ネリと呼ばれるもので、トロロアオイの根やノリウツギの樹皮から作られます。そして、ネリを加えて漉くことが、流し漉きの大きな特徴となっているのです。

紙床 干し板に張り付け
漉きあがったばかりの和紙は、次々と重ねられていきます。これを紙床(しと)と呼びます。水分をたっぷりと含んでいるため、たんなる白い塊のようにしか見えませんが脱水すると、1枚1枚がきれいに剥がれます。それを干し板に張り付けて乾燥します。


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