和紙づくりは冬の仕事
和紙の原料としてよく知られているのは、楮、雁皮、三椏(みつまた)です。このうち三椏は江戸時代の初めに日本に伝えられたものです。楮や雁皮が自生しているのに対し、いまも三椏は栽培されています。
和紙も洋紙も木を原料としていることは同じです。ただし、洋紙は木質部が使われるのに対し、和紙は樹皮の部分が使われます。しかも、樹皮といっても、さらに表皮を取り除いた靱皮(じんぴ)と呼ばれる部分です。
楮、雁皮、三椏といった原木を刈り取るのは12月から1月です。この時期は農閑期に当たります。さらに、気温の低い方が、和紙のネリに使われるトロロアオイなどが変質しにくいからです。和紙づくりが冬の仕事とされるのは、主にこうした理由からです。
原木は蒸して皮を剥ぎ、小刀で表皮を取り除きます。こうしてできたものを内皮(あまかわ)とか白皮といいます。それを流水の中で2~3日浸して不純物を取り除き、さらに柔らかくします。
和紙になるのは白皮を構成している靱皮繊維です。ところがこれらの繊維はばらばらになっているのではなく、ペクチンと呼ばれる物質で互いにくっついています。さらに若干のリグニンも含まれています。これらの物質があると繊維がほぐれにくく、紙の質も損なってしまいます。
ペクチンやリグニンはアルカリに溶けやすいので、昔は木灰(もぐさ灰、そばがら灰など)で煮沸しました。これを煮熟(しゃじゅく)と呼んでいます。現在ではソーダ灰や苛性ソーダなどが使われることが多いようです。煮熟後はよく水洗いをし、灰汁(あく)抜きをします。しかし、このままの状態では、原料は淡褐色をしています。そこで、さらに水に晒して漂白します。このとき日光がよく当たるようにすると、紫外線も加わり漂白を助けます。雪の多い地域では、水中の代わりに雪の上に原料を広げ、紫外線によって漂白します。これが和紙の産地で見られる川晒し、雪晒しです。
それでもまだ原料には細かなチリが含まれています。これらは、手作業で丹念に取り除かれます。
三椏:春に葉が出る前に黄色の花を咲かせます。樹高は1~2メートル。
楮:北海道を除く日本各地に自生しています。樹高は2~5メートル。製紙原料の中では繊維が最も長く強靭です。
トロロアオイ:アオイ科の1年生植物で、根をすり潰して作られたネリを加えることによって、紙を漉きやすく、紙床から剥がしやすくします。
雁皮:中部より南の日当りのよい山地に自生しています。樹高は1.5~2メートル。5~6月に枝先に花をつけます。
雪の多い岐阜県河合村では、楮の雪晒しが行われます。冷たい雪の上での作業はつらいものです。しかし、そうした厳しい条件の中で作られるからこそ、美しく、丈夫な和紙ができるのです。
原木から剥ぎ取られた樹皮は表面と内側の皮を削り、アルカリ液で煮熟します。不要な成分によって、釜の液は真っ黒になります。
煮熟された原料は、淡褐色をしていますが、これを流水に晒すことによって、余分な灰汁が洗い流されるとともに、漂白されます。
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