水の話
 
コケの役割と苔文化
庭にコケ植物を植えて独特の風景を作り出すのは、外国では見られない日本独自の文化のようです。
また、最近は園芸店などで緑色をしたボール状の植物を見かけます。コケ玉と呼ばれるもので、観葉植物などの根をこのボールで包みます。コケ植物の保水力を利用していると同時に、独特の緑を楽しめるようになっています。コケ植物は、人間や自然にとってどんな働きをしているのでしょうか。

京都の寺に多いコケの庭
庭のコケ 日本では昔からコケ植物を庭に植えたり、盆栽に利用したりするなど、園芸用に使われてきました。コケの美しさで有名な日本庭園も全国にたくさんあり、京都にはそんなお寺が数多く知られています。苔寺の別名を持つ京都・西芳寺の境内には92種ものコケ植物が植えられているといわれていますが、普通の人には92種類ものコケ植物を区別することはできません。一般に園芸用として利用されるコケ植物は30種程度とされています。京都にある有名なコケ庭の多くはスギゴケやその仲間であるウマスギゴケがよく使われています。スギゴケというのは、葉の形がスギに似ているところから付けられた名前です。
京都にスギゴケを使った庭園が多いのは、仮根がしっかりしているため、竹箒などで落ち葉を掃くとき、簡単にはがれないことや見た目の美しさということもありますが、それ以上に地下水と土質に関係があるからだともいわれています。スギゴケは、木漏れ日が当たるような場所が最適ですが、真夏に2~3時間程度の直射日光が当たるような場所でもすぐに枯れることはありません。京都は昔から豊富な地下水で知られています。そして、土が軟らかく土中は適度な湿度で保たれています。夏の暑いときに地表から水分が蒸発しても、土中の水分が毛細管現象によって地表へと上って蒸発をします。この蒸発する水分をコケ植物は葉で受け取り吸収します。京都は適度な水分を常に供給するのにちょうどいい土があるのです。

コケ植物で屋上緑化
 街の中でコケ植物を探してみると、意外なことが分かります。歩道に敷かれた歩石と歩石の間にもコケ植物が生えています。コケ植物は根を持たず、葉や茎から直接水や養分を吸収するため、土がなくても岩やコンクリートの上でも生育ができるからです。しかし、植え込みの中の地面にはほとんど見られません。また街路樹の真下でも、あまり生えていません。植え込みの中はあまり日が当たらず、街路樹の真下は雨があまり当たらないためです。
こうしたコケ植物の性質を利用して、最近はビルの緑化にコケ植物が一役買っています。都市ではヒートアイランド現象が問題となっています。これは都市がコンクリートやアスファルトで覆われてしまっているため地表からの水分蒸発量が減り、さらに空調設備などから放出される熱の影響などで都市が高温化していく現象のことです。ヒートアイランド対策として、最近になって昔から行われていた道路への打ち水が見直されています。水が蒸発する時に奪う気化熱を利用するというものです。一方、ビルの屋上に植物を植えて緑化する方法もヒートアイランド対策として取り組まれています。しかし、樹木や草花を植えるには土が必要で、手入れを行わなくてはなりません。そこで土が不要で手間もほとんどかからないコケ植物による屋上緑化が注目されはじめています。
コケ植物は水が大切ということを意識し過ぎて、水やりをした後で蒸発を防ごうとシートなどを被せるのは禁物です。このようなことをすると、かえってコケ植物は蒸されて死んでしまいます。樹木が多い庭の場合、コケ植物の上にたまった落ち葉をそのままにしておくと、日も当たらず、蒸されることになってしまいます。水はコケ植物にとって大切だとはいっても、やはりある程度は水はけをよくすることも大切です。
また、早く成長させようと肥料を与えることもよくありません。養分の吸収は、根からではなく葉や茎から直接行われます。葉には養分を吸収するときの調整能力がないため、必要以上の養分を吸収し枯れてしまいます。
壁面への植え込み
省エネルギー対策として植物の利用が進められています。その一つとして最近注目されているのがコケ植物です。土が不要でコンクリートの屋上でもそのまま栽培が可能なため、住まいの断熱効果を高めると同時に、都市のヒートアイランド対策としても考えられています。この住宅では壁面にコケを植えて断熱効果を高めています。
(写真提供:NPO法人環境改善緑化機構 井上幸一氏)


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