水の話
 
水の中で増えている昆虫と減っている昆虫
かつての日本ではタガメやゲンゴロウなどは、どこの池でも見ることができました。
しかし、地域によっては絶滅あるいは絶滅寸前になっています。ほかにもたくさんの水生昆虫が姿を消しています。
ところが、数を増やしている水生昆虫もいます。こうした変化は、なぜ起きているのでしょうか。

様々な呼吸法
 ビオトープが静かなブームとなっています。本来の自然の生態系を取り戻そうと、一般的には水辺空間を中心にして作られています。もちろん、そこへ持ち込む動植物は、もともとその地域にいたものであって、外来種のタイリクバラタナゴやホテイアオイなどの魚や植物などではありません。
こうした水辺空間の中で、子供たちに人気が高いものとしてトンボの幼虫ヤゴがいます。ヤゴには尻尾のあるものとないものがいます。尻尾のあるヤゴはイトトンボの仲間で、尻尾に見えるのはエラです。ヤンマなどのヤゴにはエラが見えませんが、実は腸の中にエラがあり、お尻から水を吸い込んで呼吸しているのです。
他にもタガメ、タイコウチ、ミズカマキリのようにお尻のところに尻尾のような呼吸管を持ち、シュノーケルのようにして空気を直接呼吸するもの、お尻やお腹に泡をつけ、水中ボンベのようにして呼吸をするゲンゴロウや皮膚呼吸をするカワゲラなどがいます。タイコウチ、ミズカマキリは水中で越冬します。空気呼吸だけでは窒息するため、皮膚呼吸も行っているのではないかといわれています。
ヤゴ
トンボの幼虫はヤゴと呼ばれ、水の中で生活します。当然、トンボは水生昆虫です。トンボは翅の形などからイトトンボの仲間とヤンマなどの仲間に分けられ、ヤゴの姿もかなり違います。
トンボ

子どもたち

きれいな水でなければ生きられない川の水生昆虫
池 一般に、昆虫は熱帯へ行くと種類が多くなるといわれています。ところが川の水生昆虫に限っては温帯の方が種類は豊富です。特に日本の中部地方は世界的に見ても水生昆虫が豊富な地域だといわれています。川の水生昆虫はエラ呼吸や皮膚呼吸をする種類が多く、水中の溶存酸素を利用しています。溶存酸素は水温の高いところよりも低いところの方が多くなります。だから熱帯よりも温帯の方がたくさんの水中昆虫がいるのです。しかし有機物によって水が汚れて溶存酸素が少なくなれば、当然エラ呼吸を行う水生昆虫は呼吸困難となり減ってきます。このように水生昆虫は川の汚れには敏感に反応するため、川の汚れを知る指標になるのです。一方、タガメやタイコウチ、ミズカマキリは空中の空気を直接利用します。そのため、水の汚れはあまり関係ありません。水質の指標生物としても、汚い水の中に分類してあります。
川にすむ水生昆虫がいくら水がきれいな場所がいいとはいっても、エサとなる有機物が全くないようでは生きられません。例えば湧き水のすぐ横などはすむのには適していないといえるでしょう。それでも土中のわずかな栄養分と太陽光線によってプランクトンや藻類が発生するため、ほんの少し下流に行けばトビケラなどが数を増していきます。日本アルプスのような高山の源流部でも、カワゲラはすんでいます。

雪の上で生活する虫
 ユキムシと呼ばれる虫がいます。北海道などでは冬の訪れを知らせる使者といわれています。ユキムシというのは、虫の種類を指しているのではなく、雪に関連して姿を見せる虫のことで、北海道でユキムシと呼ばれているものはアブラムシの仲間のアリマキを指し、雪が降る前に羽が生えて飛び回ります。
一方、中部山岳地帯などには、雪渓の上を歩き回るセッケイカワゲラと呼ばれるクロカワゲラの仲間がいて、これもユキムシと呼ばれています。羽は退化してありません。大きさはせいぜい2~3ミリ程度です。春に卵から幼虫となり川底の砂の中で夏眠します。秋に砂の中から出て有機物を食べて成長します。そして真冬に成虫となり、雪の上で生活をします。雪の上には落ち葉や細かな植物の破片が落ちています。日が照れば落ち葉などを栄養源として藻類が発生します。それをエサにしているようです。そのため、雪解けが始まる春になると雪の表面に落ち葉が出てきて日の光も多くなり、光合成が盛んとなって藻類も増えてきます。こうしたユキムシは真冬よりも早春の方がたくさん見られます。
それにしても、水の中ならば0度C以下になることはありませんが雪の上では氷点下10度、20度になることもあります。そんな環境の中でセッケイカワゲラは凍ることなく雪の上を歩き回っています。ただし、この幼虫を雪の上に置くと凍ってしまいます。成虫になる過程で、体液の組成が不凍液のように変化するようです。


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