水の話
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地域とともに水源を守る釜房湖
静かな湖面の遥か先に蔵王山が雲を冠っています。湖面を渡る風は湖畔の木々の緑の香りとともに涼しさを運んできます。仙台市の水瓶となっている釜房湖は昭和45年(1970年)につくられたダム湖です。美しい景観に魅せられて毎年多くの人々が訪れています。

日本で最初に取り組まれたダム周辺の環境整備
 急峻な地形の多い日本は、雨が降っても短時間で海へ流れてしまうため、洪水が起きやすく、水が利用しにくいと言われています。そこで洪水調節や発電、農業用水、工業用水、水道水などの利水を目的に多くのダムがつくられてきました。宮城県仙台市の西約25kmにある釜房ダムも洪水調節、工業用水、農業用水、発電、水道水の安定供給を目的に、名取川水系碁石川をせき止めて昭和45年(1970年)に完成しました。堤高45.5m、堤頂長177m、水深は時期によって異なりますが、洪水期では約17mです。決して大きなダムではありませんが100万人都市仙台市の水道水の約36%を供給するなど重要な役割を担っています。
湖畔には「国営みちのく杜の湖畔公園」が整備されています。公園の一角には「釜房の家」のほか「津軽の家」「遠野の家」「南会津の家」など東北地方各地の家も移築されています。ボートに乗って釜房湖を湖上から楽しむこともできるようになっています。湖ではヘラブナやコイ、冬はワカサギ釣りなどが楽しめます。ここには年間70万人もの観光客が訪れます。また釜房ダムにも年間42万人の観光客が訪れ、多くの人に憩いの場を提供しています。こうしたダム周辺の環境整備が行なわれたのは釜房ダムが日本で最初でした。

仙台市
杜の都と呼ばれる仙台市の人口は約100万人。市民生活にとって最も重要な水は、遠くはなれた場所で確保されます。


釜房湖
仙台市民の水瓶になっている釜房湖は、年間42万人もの人が訪れる風光明媚な人造湖です。


湖をばっ気してカビ臭を防止
 釜房湖は完成した時から仙台市民の水道水源として利用されました。ところが、ダムが竣工した翌年に水道水からカビ臭が発生しました。原因を調査したところ湖水から採取した植物プランクトンの一種であるフォルミディウムの体内に、カビ臭の原因となる2-MIB(2-メチルイソボルネオール)が検出され、フォルミディウムの異常増殖によるものであることが分かりました。ただしフォルミディウムにも、2-MIBにも毒性はありません。フォルミディウムには緑色をした株と茶色の株があり、2-MIBをつくり出すのは緑色をした株です。
カビ臭を除去するには2通りの方法があります。一つは発生したプランクトンの除去です。もう一つはプランクトンの発生そのものを抑制する方法です。仙台市では浄水場に粉末活性炭を使用してカビ臭を取り除く処理をしました。一方、カビ臭の原因となるフォルミディウムについて調査した結果、繁殖に適した水温は約20℃前後ではないかとも考えられることが、調査の中から推定されるようになってきています。
湖の表層の水温は春から夏にかけて上昇します。そこで昭和59年(1984年)からパイロット実験として「間欠式空気揚水筒」を釜房湖に導入しました。これは湖底に設置した筒の中に空気を送り込み、空気の上昇とともに下にある冷たい水を表層部へ持ち上げ、フォルミディウムの繁殖を抑えようというものです。この装置によってしばらくはカビ臭の発生は見られなくなりましたが、平成8年(1996年)に再びカビ臭が発生しました。
そこで平成15年(2003年)から散気方式ばっ気循環装置や深層ばっ気装置などを取り付けることになりました。湖の表層部と低層部の水をばっ気により循環させることで、表層部のフォルミディウムを水温の低い低層部へ沈み込ませ、さらに光を遮断することで光合成を行なうことができなくなり、増殖が抑えられるのです。こうした湖水の水をばっ気によって保全する試みを行なったのは釜房湖が最初です。これによって平成19年度は過去最大で仙台市の浄水場に使用する活性炭の量を13分の1にまで減らすことができました。このうちの多段型散気方式ばっ気循環装置は下から5mおきに空気の吹き出し口が4つ付けられており、間欠式空気揚水筒よりも湖の水を強力に循環させることができます。

釜房湖
釜房湖では水質を保全するため、湖の水をばっ気しています。右側の波紋が広がっている地点でばっ気が行なわれています。

フォルミディウム 表
植物プランクトンの一種であるフォルミディウムが繁殖すると、カビ臭の原因となります。(写真提供:釜房ダム管理所)


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