水の話
メニュー|1 2 3 4 5 6次のページ
 
歴史がつくり出した汚れやすい構造
波静かな渚で子どもが水と戯れています。ここは東京湾に注ぐ荒川河口近くの葛西臨海公園の一角です。荒川は江戸時代初期に改修された人工河川で、かつては利根川の支流の一つとなっていたこともありました。埼玉県の綾瀬川は荒川の支流のそのまた支流にあたる小さな川で、改修される前の荒川の主流でもあった川です。

暴れ川の一部であった 綾瀬川

 全長約48km、川原といえるような場所はあまりなく、ほぼ川幅いっぱいに水をたたえてゆっくりと流れています。綾瀬川は埼玉県桶川市に源を発し、東京都足立区を通り、葛飾区で中川に合流します。流域面積は176km2、流域には埼玉県のさいたま市、川口市、越谷市、草加市、八潮市や東京都足立区、葛飾区などが含まれ、流域の人口は約115万人にも及びます。利根川水系に属する一級河川で、かつては荒川の本流であったり、派川(分流)となっていたりしました。昔は流路の変動が激しく、周辺の地域に洪水被害をもたらしていたため、「あやしの川」と呼ばれていたことから綾瀬の名前が付けられたといわれています。
群馬県北部のみなかみ町に源を発し、千葉県の鹿島灘へと流れる日本で2番目に長い利根川は、かつては東京湾へと注いでいました。利根川は坂東太郎の異名を持っているように筑紫次郎(筑後川)、四国三郎(吉野川)とともに日本三大暴れ川の一つに数えられていました。
利根川は下流域でいくつかに枝分かれし、再び合流する形で流れ、毎年のように氾濫していました。当時の利根川は現在の中川の流路部分を流れていました。つまり現在の中川は旧利根川の主流であったのです。現在の元荒川には荒川が流れていました。このように複雑に絡み合って流れていたため、ひとたび洪水になると、大きな被害がもたらされていました。
利根川の治水は大きな課題でした。そこで天正18年(1590年)に徳川家康が江戸へ入府して以来、東京湾へ流れ込んでいた利根川の流路は60年かけて太平洋へ直接流れ込むように改修されました。東京湾へ流れ込んでいた当時の利根川の流路が現在の江戸川に当たります。


合流点
綾瀬川(写真奥)と中川(写真手前)の合流点。ゆったりとした穏やかな流れですが、かつては暴れ川とされていました。

荒川
東京都葛飾区の東京湾に面してつくられた葛西臨海公園から見える荒川(写真奥)と東京湾。今では安定している荒川の河口ですが、江戸時代より前は、大雨が降るたびに河口の位置は変わっていたようです。



農業用水が主な水源に

 綾瀬川は中川の支流の一つとなっていますが、元々は荒川の本流でした。しかし流路の変動が激しく、荒川の主流が元荒川へと移っていくに従い、綾瀬川は荒川の派川となっていきました。ところが綾瀬川や中川の辺りの標高は10m以下のところが多く、河床勾配は5,000分の1しかありません。しかも蛇行を繰り返しながら流れていたため、大雨が降ると荒川から大量の水が入り込み、周辺地域は水害に悩まされていました。そこで、伊那備前守忠次によって慶長(1596~1615年)の頃、堤(備前堤)が築かれ、荒川の水が綾瀬川へ入らないように切り離され、さらに綾瀬川の水は元荒川へ導水するように改修されました。
荒川から切り離されたことによって、綾瀬川の主な水源は農業用水となりました。また、周辺からの湧水も集めていたと思われます。どこまでものっぺりとした平坦な地形に見える関東平野ですが、大宮の辺りは台地上になっています。その台地に降った雨が綾瀬川の流域周辺で湧き出ていたのです。
埼玉県の魚は元荒川の上流部にすむトゲウオ科のムサシトミヨです。トゲウオ科の淡水魚がすんでいるのは湧水のある場所です。こうした魚が県魚になっていることから、この辺りにも湧水が豊富にあったと考えられます。
大雨が降るたびに流路を変えていた綾瀬川の流れが安定することにより、田畑は水害から免れるようになり、新田開発が進みました。当然、綾瀬川は農業用水として重要な役割を果たすようになり、流域は江戸の町にとって重要な食料を供給する穀倉地帯として発展していきます。穀物を江戸方面へ運搬する交通手段として綾瀬川を利用した舟運も行なわれるようになっていきます。一方、人口密集地帯である江戸の町からは田畑の肥料となる金肥(人糞)などが舟で運ばれました。


藤助河岸跡
綾瀬川での舟運が盛んであった頃の藤助河岸(とうすけがし)跡。河岸とは舟から荷物を積み降ろしする場所のことで、かつては綾瀬川沿いに多くの河岸がありました。しかし陸上交通が発達し、昭和30年代には姿を消してしまいました。

田んぼ
綾瀬川の上流部には広々とした田んぼが広がっています。こうした田んぼの水が綾瀬川の水源となっています。

約1000年前
約1000年前の川の流れ
現在の川の流れ
現在の川の流れ
(参考:国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所ウェブサイト)


メニュー|1 2 3 4 5 6次のページ