敷地内にビオトープをつくる学校や企業が増えています。 その多くはこぢんまりとしたものです。ところが北九州市に日本最大級の ビオトープがあります。しかも、ここは廃棄物処分場の跡地につくられています。
(写真提供:北九州響灘ビオトープ)
水たまりのような小さな池の上をアメンボが移動し、水草の間をメダカが泳いでいます。いわゆるビオトープとされる空間がいろいろなところで見られるようになっています。
ビオトープの定番となっているのが水辺空間です。そのため、池をつくることだけがビオトープだと思っている人もいるようです。ビオトープは生物と場所を意味するドイツ語の合成語で、生物の生育する空間と訳されています。その意味からすると生物がすんでいる里山、小川、水田、草地、干潟などの空間もすべてビオトープだといえなくはありません。
そうした場所が埋立て、造成、都市化などで変わっていくにつれ、すんでいた生きものが姿を消していきました。そこで生きものたちを呼び戻すことのできる空間をつくろうというのがもともとのビオトープの考え方です。
皇后崎下水処理場で三次処理された水は、市民の憩いの場である洞海緑地の一角に作られた洞海ビオパークへと導かれています。
四季それぞれに美しい花を咲かせる植物が植えられた公園などは人々の憩いの場所を提供してくれます。花の蜜を求め多くの虫たちも寄ってきますが、こうした空間はビオトープとは呼ばれません。
公園の植物は人を楽しませることが目的の一つです。そのため花の時期が終わると、次の花に植え替えられます。植物の葉や蜜をエサとする虫たちが集まってきたとしても、植え替えがおこなわれると、そこで産卵や成長を繰り返すことができません。
それに対しビオトープは、植物や昆虫、魚などが生きられる環境をつくり出すという考え方です。その地域にもともとすんでいた生きものたちを、もう一度呼び戻すことができるのであれば、一番理想的です。昆虫がエサとする花の蜜や葉、産卵に適した植物は地域によって違います。当然、その地域に適した生きものも異なります。
一カ所に池、湿地、林、草地、小川など、生きものたちが世代を繰り返しながら暮らせる場所をつくり出すことが理想ですが、現実にはかなり困難です。しかし、そうした空間がそれぞれの地域の中に点在して有機的に結びつけば、地域全体として、あるいは都市全体が巨大なビオトープとして機能することになっていくでしょう。
洞海湾の埋立地の一角に皇后崎下水処理場がつくられ、下水道の処理がはじまったのは1963年(昭和38年)でした。
北九州市は市内や郊外に自然の川や山などがたくさん残されています。残されている自然空間を保護し、より美しい街にしようと市はさまざまな取り組みをはじめました。ビオトープづくりもその一つです。いまでは小中高校、そして企業によるビオトープが40カ所以上もつくられています。
皇后崎下水処理場からの放流水は、最初は工場地帯との緩衝帯に植えられた樹木への遣り水用に利用していましたが、さらにその水を使った洞海ビオパークを1998年(平成10年)に完成させました。処理水を砂ろ過して植物浄化槽へと導きます。植物によって窒素やリンなどを吸収させ、さらにきれいになった水はせせらぎ水路を通り、最後は洞海湾へ放流されます。
洞海ビオパークへ導かれた水は植生浄化槽によってさらに浄化されます。
響灘沿いに、10基の風車が見えます。世界環境首都を目指す北九州市が導入を進めている風力発電で、発電規模は3,500万kwh、約10,000世帯の年間電力消費分です。
洞海湾の湾口付近から玄界灘へと埋立地が広がり、多くの工場が集まっています。そこに北九州エコタウン事業が1997年(平成9年)から開始されることになりました。
エコタウン事業は工場などから出る廃棄物を新たに他の分野の原料として活用し、あらゆる廃棄物を最終的にはゼロにし、同時に地域の振興を図ろうというものです。地方自治体は、それぞれの地域の特性に応じて循環調和型のまちづくりプランを作成し、環境省と経済産業省に承認されるとさまざまな支援を受けられます。北九州市はその1号として承認されました。
北九州エコタウンには企業、行政、大学が連携して最先端の廃棄物処理技術やリサイクル技術を実証的に研究するエリア、各事業が相互に連携することでゼロ・エミッションを目指す総合環境コンビナートエリア、中小企業・ベンチャー企業の環境分野への進出を支援するエリアなどがあります。これらのエリアが響灘の埋立地の一角につくられました。