埋立地の一角は浚渫で出た土砂や工場からの廃棄物などの処分場としても使われました。やがて運び込まれた土砂などに含まれている種子などが発芽し、緑に覆われていきました。
1986年(昭和61年)に廃棄物の埋立てが完了した後「響灘・鳥がさえずる緑の回廊創生基本構想」がつくられました。2004年(平成16年)から2009年(平成21年)まで廃棄物を土で覆う工事がおこなわれます。その間に処分地にできた窪地などに雨水が溜まり、自然に池や湿地、草原がつくられていき、さまざまな生きものが集まるようになってきました。こうして2010年度(平成22年度)からビオトープとしての本格的な整備がおこなわれ、2012年(平成24年)10月、41haもある日本で最大級の北九州市響灘ビオトープがオープンしました。これは東京ドーム9個分もの広さです。
雨水などが溜まってできた北九州市響灘ビオトープの湿地。たくさんのメダカが泳いでいますが、人為的に運び込まれたのではありません。
北九州市響灘ビオトープは自然につくられた生きものたちの楽園です。池や湿地は人工的につくられたのではありません。ここに生息している動物や生えている植物も、人の手によって運び込まれたものはありません。
湿原にはタカの仲間であるチュウヒやベッコウトンボ、草原には可愛らしいカヤネズミもいます。池の中にはシャジクモ、ムサシモなどの水草も成育しています。たくさんのメダカも泳いでいます。水生昆虫ではタイコウチや大型から小型までの何種類ものゲンゴロウもいます。トノサマガエルもいます。ここの動植物には絶滅が危惧されているものや、福岡県内のどこの地域と比べても、数も種類も多いといわれるものがたくさんいます。
これらの生きものは運び込まれた土砂に混じったり、風に乗って飛んできたり、あるいは鳥の足などについてここへきたのです。カヤネズミも対岸から橋を渡って来たのではないかと推測されています。いまでは237種におよぶ鳥類や、284種の植物、さらに30種類のトンボやメダカ、水生昆虫などが確認されています。一方で外来種とされる植物やジャンボタニシなども繁殖しています。外来種が増えてしまうと在来の動植物に悪影響を与えてしまいます。
北九州市響灘ビオトープではできる限り自然の状態を保つことを重視しています。日照りが続き、池や湿地の生物に大きな影響を与えない限り、人為的に水を補給しないようにしています。ただし外来種のジャンボタニシは響灘ビオトープ愛好会や近くの企業の従業員ほかにも協力してもらい、駆除しています。外来の植物も、時には刈り取っています。
北九州市響灘ビオトープが本格的にオープンしたのは2012年(平成24年)ですが、いまのように植物が生い茂り、鳥や小動物が集まってくるまでには30年という長い時間をかけています。北九州市響灘ビオトープのこれまでの活動に対し、この6月に日本ビオトープ協会から「協会会長特別賞」が授与されました。
北九州市響灘ビオトープに隣接する埋立地。ここにも野鳥がよく訪れているようです。
いま、急激な経済成長を続けているアジア地域では、過去の日本と同じように深刻な公害問題に悩まされている国々があります。北九州市が公害を克服し、先進的な環境未来都市へと脱皮してきた取り組みは、国の内外から高く評価されています。そこで北九州市は過去の経験に基づいた技術やノウハウを活用し、環境での国際協力事業にも力を入れ、世界の環境都市を目指しています。
北九州市が福岡県や地元経済界の協力の下で設立した北九州国際技術協力協会(KITA)は大気、水環境、新エネルギーなど、多岐にわたる環境問題について、これまでアジア、中南米、アフリカなど、世界150の国・地域から約7,500人もの研修生の受け入れや、25カ国へ175人の専門家を派遣しています。
さらに、高度処理した下水を、水不足に悩むオーストラリアへ輸出し、鉄鉱石の採掘現場での粉塵防止のための散水や鉄鉱石の洗浄に利用してもらおうという計画も検討しています。
アジアをはじめとした世界の人々が先進的な公害防止技術などを学ぶため、北九州国際技術協力協会(KITA)へ研修に訪れています。写真は北九州市環境ミュージアムでの研修風景。(写真提供:KITA)
高台から眺めると、海の間近まで緑が広がり、北九州市には自然が多いことが分かります。
北九州市は人口約100万人もの大都市ですが、市街地のすぐ近くまで海や山が広がっています。豊かな自然は、多くの生きものを育みます。そうした自然をどのように活かすのかがこれからの多くの都市にとって重要な課題となっています。
市内の中心部を流れる紫川は、かつては工場廃水や生活排水によって水が汚れていました。しかし市民、行政、企業が一体となって浄化に取り組み、今ではアユやシロウオが遡上し、上流にはホタルも飛び交います。
街の中に何本もの小川を復活させることができたならば、それ自体がビオトープとなるだけではなく、災害時の防火用水などに利用できるかもしれません。
街の中や周辺を取り巻く海や川や山、それらの一つひとつが自然を取り戻していくことで、北九州市全体が巨大なビオトープになる日がいつか訪れることでしょう。
北九州市の都心を流れる紫川は、市民にとってシンボル的存在です。かつては工場廃水や生活排水で悪臭を放っていたこともありますが、今では美しい流れを取り戻しました。