地方都市における水環境の未来

水の話 No.165 特集 地方都市における水環境の未来 信濃川によってつくられた新潟平野

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日本最長の川と日本最大の稲作地帯

水害に悩まされていた新潟平野

 かつての新潟は広大な低湿地帯のようなところで、必ずしも米づくりに適しているとはいえないところでした。雨が降ると潟湖に水が集まり、そのまま溜まって悪水となり、さらに大雨のときはこの悪水が田畑に押し寄せ農作物に被害を及ぼしていました。水田での作業も腰まで水に浸かっておこなわれていました。収穫した米も、決して上質のものではありませんでした。
 江戸時代に、こうした悪水を日本海へ放流するための水路建設がおこなわれるようになり、潟湖や沼地であったところに新しい田んぼが開墾されていきます。ところが低湿地帯は遊水池としての機能をもっていました。放水路がつくられ、潟湖の数が減るにつれ、今度は水害に悩まされるようになってしまいました。現在の三条市や燕市など、信濃川下流地域では江戸時代を通じて平均して3年に1度は堤防が切れていたとされます。
 そこで増水した信濃川の水が新潟平野へ入る前に日本海へ分水する計画が考えられました。信濃川は新潟平野へ入ると日本海に平行するように北東へ流れ、新潟市のところで、やっと海へ流れ出します。そこで信濃川と日本海との間が一番近い現在の燕市大川津から寺泊海岸に向けて分水路を開削し、放流しようというものです。明治になり、大河津分水路の工事がはじまりますが、信濃川下流の水量が減少することが懸念され、その後、新潟平野のほぼ全域が浸水する水害に見舞われます。この時、現在の燕市横田で信濃川の堤防が350mにも渡り決壊し、家屋が流失し、さらに低地で水が引かず、衛生状態が悪くなり伝染病で命を落とす人もいました。そのため、明治の終わり頃から大正にかけて13年の歳月を費やし、大河津分水路を完成させました。

新潟市内にある鳥屋野潟は、かつて潟湖でした。いまでは公園として整備され、水鳥たちの貴重な憩いの場にもなっています。

普通は山に降った雨が山肌を削り取りながら川となって流れますが、信濃川の場合は、最初に川ができ、あとから隆起してできた山を削り取りながら流れていました。信濃川中流域には規模としては日本最大とされる、津南町の9段にも及ぶ信濃川の河岸段丘が、そのことをものがたっています。

信濃川(写真手前)と大河津分水路(写真左手)。奥に見える山の向こうに日本海があります。信濃川本流は左から右へ流れ、大河津分水路は山の見える方へと流れています。(写真提供:国土交通省信濃川河川事務所)

水害で困窮していた地域を発展させた金属加工業

 新潟県のほぼ中央に位置する三条市や燕市は金属産業の街として知られ、刃物、農機具、金属洋食器などの生産では日本一を誇ります。三条市一帯で地場産業としての金物づくりがはじまったのは、江戸時代です。この地域は幕府の直轄地でしたが、毎年のように起こる信濃川の水害で住民達は困窮していました。そこでこの地に代官として赴任した大谷清兵衛は領民を救うため、江戸から和釘職人を呼び寄せ、農民に副業として和釘をつくらせました。この地でつくられた和釘は江戸に運ばれました。
 明治になると、和釘に代わり洋釘(現在使われている釘)が普及します。それまでの和釘職人は、鍬、鋤、鎌といった農工具や生活用具として矢立、火箸、灰ならし、銅器、煙管、やすり等をつくるようになり、大正時代から、洋食器もつくられるようになりました。この地域が金属産業の街となったことも、信濃川と係りがあるといえるのです。

信濃川下流域には、アユ、ウグイ、オイカワなど約40種の魚がいます。大河津分水の洗堰には、流れの異なる3本の魚道と観察室が設置されています。秋には、サケが遡上する様子を見ることができます。

恵まれた自然豊かな地域に環境基本計画

 三条市や燕市は金属産業が盛んですが、その一方で豊かな自然があり米づくりも盛んです。現在の三条市は平成17年(2005年)に三条市、栄町、下田村が合併、燕市は平成18年(2006年)に燕市、吉田町、分水町が合併し、それぞれ市域を拡大しました。
 三条市は北西部に信濃川、中心部を五十嵐川が流れ、かつて下田村のあった南東部には奥早出粟守門県立自然公園、越後三山只見国定公園があり、北五百川の棚田は日本の棚田100選の一つにも選ばれています。公害や水環境問題とはあまり縁がないような豊かな自然環境に恵まれた地域です。

左:三条市には刃物や鋏、鍬などの金属器を製造する工場が集まっています。

右:信濃川の支流の一つである五十嵐川上流では、美しい北五百川の棚田を見ることができます。

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