伝統的農業によって守られてきた日本の自然
ここ何十年かの間に日本から多くの自然が失われたといわれています。たとえば、国土の67%を占める森林のうち、47%はスギやヒノキなどの人工林です。しかも、かつて日本を代表していたブナやシイ、カシなどの広葉樹林の森は国土の数%しか残されていないのです。
河川も水が流れている部分だけでなく、河川敷や周辺部に形成された湿地を含めた部分は野生生物の貴重なすみかであったのです。しかし、いまや多くの河川は水路としての役割しかもたされていないのが現状です。自然環境が消滅した原因の多くは人の手によるものです。一方、自然環境の消滅には火山の噴火、台風、地震、洪水、野火による自然火災といった場合もあります。しかし、人間の手による自然環境の消滅と、自然自身による自然環境の消滅には大きな違いがあるのです。その違いは失われた自然の再生が自然自身によって可能かどうかということです。例えば、洪水によって木々が倒され一部に開けた環境が出来たとしても、そこに新たな生き物が暮らせる環境が再生されます。ところが、コンクリートで固めてしまうような、人の手によって再生が不可能な自然環境の消滅を行うと、二度と自然は戻らなくなります。 ところで、雑木林やため池、水田などは、人の手によって自然が改変された場所にもかかわらず、自然の豊かな場所といわれてきました。例えば稲作は、湧き水の多い湿地や河川の下流に広がる湿地のような場所で始まったと考えられています。当然、生物は追い出されることになりますが、新しく作られた水田は、それまで湿地に生息していた生物に代わりとなる環境を提供することになったのです。
燃料や肥料となる芝や木を刈り取ったり、炭焼きを行う里山も、伐採行為という点では人の手による自然の改変です。しかし、人手が少なく大規模な改変が行われることもなかったため、かえって落葉広葉樹林を維持し続け、そこに生きる生物を保存してきたのです。かつて、ごく当り前に行われていた日本の農業形態は、それぞれの地域にすむ野生生物の種を減少させることなく、結果的には保護し続けてきたのです。
いま、絶滅が心配されている日本の野生生物の多くは、かつて水田や雑木林などで、ごく普通に見ることができたものばかりです。こうした場所こそが本来のビオトープであったのです。
木の種類の豊富な広葉樹の森は、そこにすむ生き物の種類も豊かにします。しかし、針葉樹であっても、自然に形成された森であれば、当然、その環境にふさわしい生態系が形成されています。
水田も湿地の代わりとなる環境を提供し、ビオトープとしての重要な役割を果たしてきました。ところが、水路のコンクリート化や農薬の多用などによって、生き物にとっては必ずしもすみやすい環境ではなくなっています。
自然の川、池、湖、沼、干潟、草原、ヨシ原などもすべてビオトープです。それぞれの環境によって、生えている植物も生活する動物の種類も異なってきます。
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