水の話
 
ビオトープが目指すもの

都会の中にある生きものたちの生息空間
 ビオトープとはその地域にすんでいる本来の野生生物が生息・生育できる環境であり、そうした環境を復活させることを目的にしているとすれば、ビルが立ち並ぶ都会の中でビオトープを作り出すことは不可能なことなのでしょうか。たしかに都市を100年、200年前の姿に戻すことはできません。しかし、ビオトープが目指していることは、たんに昔のような自然の姿に戻すことではなく、バランスのとれた生態系が復活できるような環境を整えることです。都市の中にも多くの公園緑地があります。こうした空間に、どうすれば野生生物の生息空間としての機能を持たせられるようにするかといったことが大切なのです。
さらに、都市でのビオトープとして屋上ビオトープが試みられています。屋上は都市に残された、未利用の空間となっている場合が多いのです。もちろん、屋上ビオトープは屋上庭園ではありません。太陽の光りがさんさんと降り注ぎます。工夫次第では雨水を蓄えて利用することも可能です。土さえ運び入れれば植物を育てられます。小さな池を作ることも可能です。
名古屋市の工業地帯の一角にある(株)テクノ中部では、平成10年に6階建て本社ビルの屋上の一部に、面積180m2のビオトープを完成させました。ここに池、小川、水田、湿地、植栽地などを整備しました。そこへ名古屋市近郊の農山村に生育している動植物を導入しました。陸地部には、アベマキ、エノキ、サンショウ等、昆虫が食べたり蜜を吸いに来るような植物が植えられています。そして、いまではアゲハ、モンシロチョウ、イチモンジセセリ、アブラゼミ、クマゼミ、アキアカネ、ギンヤンマ、アオモイトトンボなどの昆虫が飛来するようになりました。ビオトープの一部は昆虫類の繁殖を行わせるためネットゲージが張られていますが、全体としては開放された空間となっています。
屋上ビオトープと公園緑地とがうまく連携されていけば、都会での生態系の復活も不可能ではなくなるのです。
キジバトの巣
バッタ
幼虫
屋上ビオトープで育った稲に、どこからかバッタが飛んできたり、キジバトが巣をかけています。都会の中でも環境さえ整えれば、訪れてくる動物はいます。 

屋上ビオトープ1 屋上ビオトープ2
水田、小川、湿地、池などを備えた(株)テクノ中部本社の屋上ビオトープ。名古屋南部の工業地帯にありますが、小鳥やトンボ、チョウも自然飛来しています。

ビオトープのネットワークによる生命の回廊
 多様な生物の生息空間としての雑木林の価値が見直されています。雑木林は燃料や肥料の供給源として、長い間日本の農業を支えて来ました。下草刈りや落ち葉かきによって、林床管理されてきたのです。ところが、燃料革命や化学肥料の発達は、雑木林の利用価値を失わせていきました。林床管理されない雑木林では林床植物が繁茂しすぎ、それまで生活していた動植物の中には住めなくなるものがでてきます。
本来の雑木林の姿を取り戻そうと、下草刈りなどが行われているところもあります。ところが、雑木林の林床全体をきれいにしすぎて、かえって生態系を壊してしまったという事例があります。雑木林の中にも様々な環境があり、均一ではないのです。
トンボの生育環境も単一ではありません。水辺であればすべてのトンボが来るわけではないのです。同じ水辺といっても、渓流、川の上流や中流、山里の田んぼ、平地の田んぼ、池、湿地などがあり、トンボの種類によって生息する水辺は違っています。トンボの多くは羽化するとすぐに水辺を離れ、近くの草むらや林に移動しますが、羽化してすぐに高い山へ移動して秋になってから再び水辺に戻って産卵するアキアカネや、一生のほとんどを水辺近くで生活するイトトンボもいます。このように、多くの動物は産まれる場所、生活する場所が異なることが多いのです。そのため、様々なタイプのビオトープを作り、それを適度な間隔で配置することも大切になってきます。できれば、ビオトープ同士を生物が移動しやすくするため、回廊のようにつなげる方法を考えることも必要です。その回廊は垣根のようなものであったり草地のようなものかもしれません。あるいは小さなせせらぎかもしれません。せせらぎであるとすれば、そこに流れる水はきれいであってほしいものです。水は生態系の中で重要な役割を担っている要素です。美しい自然の水辺環境を守り育てることは、新たなビオトープの創出にもつながる大切なことなのです。

水辺

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