蕎麦で有名な地域は全国にたくさんあります。その中の一つに信州の戸隠村があります。ここではかつて麻と蕎麦の二毛作が行なわれていました。麻は麻布を織るための原料です。麻は5月のはじめに種を蒔けば、8月の上旬には収穫できます。そのすぐ後に蕎麦を蒔くのです。夏が短く稲作に不向きな山国では、麻は現金収入として、蕎麦は食料として農家の重要な作物であったのです。
戸隠を有名にしているのが平安時代に開山され、修験者の山として栄えた戸隠神社です。戸隠神社は比叡山の裏庭とまで呼ばれ、全国から多くの修験者が集まりました。かれらが修行のため山に入るときに携行したのが蕎麦でした。他の穀物のように、煮る必要がなく、水さえあればそのまま食べられる上、栄養価も高く、修行には最適の食料であったのです。しかも蕎麦は五穀に含まれておらず、年貢として取り立てられることもありませんでした。当然、密教の修行で五穀断ちをするときも、蕎麦は食べることが許されていました。そこで、盛んに蕎麦がつくられるようになったともいわれています。
戸隠は戸隠忍者の里でもありました。特異で急峻な山容の戸隠連峰が、修験道や忍者を生み出したのでしょう。忍者の非常食にも、蕎麦は重要な食材となっていました。
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背後に険しい山を控え、厳しい気候の戸隠村は、必ずしも水で苦労した土地とはいえませんが、水田耕作には長年不向きな土地でした。 |
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