子どもの時に川で遊んだ記憶は大人になってからも鮮明に甦ります。川がきれいであればあるほど、川への思いは強く心に刻み込まれます。そうした原体験は川を守り、美しい川を取り戻そうという気持ちを育むのです。ところが子どもたちの川離れが全国的に進んでいます。四万十川も例外ではありません。流域の人々からはアユやウナギの姿を昔ほどには見なくなったとか、川で遊ぶ子どもたちがいなくなったという声が聞こえてきます。四万十川の水が汚れたわけではありません。水質の変化をBODで見ても、ここ数十年はそれほど大きな変化はありません。子どもたちが川離れしているのにはさまざまな理由があるのでしょうが、自分達の川という意識が薄れていくと、川への関心も低くなりかねません。そこで高知県四万十川流域振興室は流域の住民や中高生も参加した清流基準調査を行っています。
四万十川の清流基準は環境基本法で定められた環境基準とは異なります。環境基準の考え方はどちらかというと汚れた川の水質を改善するというものです。それに対して四万十川の清流基準は、清らかな四万十川の流れを保全するための基準といえるでしょう。
清流基準には清流度、窒素、リン、水生生物という4項目の四万十川独自の基準が設けられています。水生生物の調査は水深30cmのところで流れがあり、川底に石の多い場所を選びます。石に付いている生物と、川底をかき回して流れてきた生物を網で受けて取り、捕獲した生物の種類と数から水質を6つの階級に分けます。窒素とリンについては、住民や中高生が主体となって水を採取し、測定そのものは行政が行います。
ユニークなのが清流度です。水の透明度といえば普通は白い円盤を沈めていき、円盤が見えなくなるまでの深さを測定します。しかし四万十川のように川底が見える清流では、このような方法で測定しても意味がありません。そこで水平方向の透明度を測定したものを清流度としています。四角い筒状の箱の底に鏡を取り付け、その前を黒い円盤を持った人が後ずさりしていきます。箱の上から覗き込み黒い円盤が見えなくなるところまでの距離を測ります。これら4項目の調査を年3回行い、平均値を出します。そしてあらかじめ決められている清流基準値と比較します。西土佐地区ではこうした調査に小学生も参加させています。川の中へ入ることの楽しさをもっと身近に感じてもらうためです。
四万十川が全国に知られるようになり特別な川として注目され、全国から多くの人が訪れるようになったいま、そのことに戸惑いを隠せない地元の人もいます。流域に暮らす人々にとって、四万十川は当たり前のものであり、特別な存在ではなかったからです。川を汚さないということも当たり前のことであったのです。これからも住民の高い意識とともに四万十川はきれいな川であり続けていくことでしょう。 |
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四万十川と広見川の合流地点の近くでも四万十川の清流基準調査が行われています。
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底に鏡のついた箱を川の中へ入れ、上から覗いて黒い円盤が見えるところまでの距離を測ります。円盤についている“たも”は水生生物を調査する時に使います。 |
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