湾奥部の黒酢で有名な福山町(現霧島市)の沖に海面が煮えたぎったように泡立つ海域があり、その様子から昔より「たぎり」と呼ばれています。泡の正体は海底にある噴気孔から吹き出される二酸化炭素、メタン、硫化水素などを主な成分とする火山性ガスです。海底にある噴気孔からは200℃を超える熱水も噴出しています。このような場所では生物が生息できないのが普通です。ところがそのような場所に生きている生物がいます。こうした生物が最初に発見されたのは南米ガラパゴス諸島沖の水深2,700mの深海です。細長い管状の殻の中に入って生活しているためチューブワームと呼ばれています。日本名は体の一部が羽織に似ているところからハオリムシです。特異な環境にすんでいるため、生命の起原の謎を解明する手掛かりになるかもしれないといわれている生物です。
ハオリムシは環形(かんけい)動物の一種とされ、口も消化器官もありませんが血管や心臓があり、人の血液と同じようにヘモグロビンを持ち、エラは赤い色をしています。ハオリムシが栄養としているのは海底の噴気孔から吹き出す硫化水素などで、これを体内に共生するバクテリアが有機物に変えています。これまでにハオリムシの仲間は10種類ほどが見つかっていますが、その多くは水深数千mの熱水が吹き出す場所です。錦江湾の「たぎり」でハオリムシが発見されたのは1993年で、しかも水深はわずか82mです。これまでに見つかったハオリムシに比べ、非常に浅い場所でした。1997年には新種のハオリムシということでサツマハオリムシと命名されました。ハオリムシは深海探査のためにつくられた特殊な潜航艇に乗って数千mまで潜らない限り実際の姿を見ることができませんが、サツマハオリムシは浅い海に住んでいるため、人工的な飼育が可能で、かごしま水族館でも飼育展示が行なわれています。 |