水の話
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清らかな水の生まれる里

水田も重要な水源の一つ

 中央火口丘群や外輪山に降った雨は、南阿蘇村で豊富な湧水となって湧き出しますが、その水は地下に浸透した水のほんの一部です。有明海へと注ぐ中流域の地下には巨大な地下水盆が形成されています。
地下水は無尽蔵にあるように思われています。しかし雨水は一気に地下へ浸透するわけではありません。地上に池のような水を蓄えておくところがないと、地下へ浸透する前に海へ流れ出てしまいます。地上の水が浸透し地下水が蓄えられることを涵養(かんよう)といいますが、水田も地下水涵養の役割を担っています。
昔の水田は冬でも水が張ってありました。同じ土壌のところで毎年同じ作物を繰り返しつくり続けると、連作障害が起きて、収穫量が低下します。しかし水田は何十年、何百年と同じものをつくり続けていますが連作障害は起きません。水を張ることによって土壌が酸素不足になり、作物の生育に有害な菌類が繁殖できなくなるからです。また、水が張られていることによって雑草の繁茂も防ぐことができるのです。
水田に水を張るには、用水路の管理はもちろん、畦(あぜ)の整備も毎年きちんと行なわなければならず、かなりの労力が必要です。しかも農業従事者の高齢化によってこうした水田の維持が難しくなるにつれ、水田に水を張るのは稲の生育に必要な時期だけになってしまいました。阿蘇の草原が人の手によって維持されてきたように、阿蘇の地下水は水田によって維持されてきた面もあるのです。


水田
地下水が涸れないようにするには、地上から地下へ水を供給できる場所が必要です。そうした場所の一つが水田です。そのため水田に年間を通して水を張ろうという活動をしている地域もあります。


火山の影響が少ない良質な水
 地下水がおいしいとされるのは、地下へ浸透する過程で汚れがろ過され、適度なミネラル分を溶かし込むためです。水に含まれている有機物も、地下へ浸透していく間にある程度は分解されるでしょう。地下水は地上の川のような水路を流れるのではなく、地下の岩や砂の隙間を通り何年もかけてゆったりと流れます。目の細かいフィルターの間を通るのと同じことで、その分きれいにろ過されるのです。
阿蘇のカルデラの中では至る所で湧水が見られます。湧水の一番の元になるのは雨水です。その湧水も、外輪山に降った雨を起源にするものと中央火口丘群に降った雨を起源にするものとがあります。
中央火口丘群は中岳が噴煙を上げていまも活動を続けていることからも分かるように、外輪山に比べ比較的新しい噴火によって堆積した溶岩などでできた山です。火山性堆積物の中には鉄分や火山性ガスに由来する成分が含まれるため、その中を通った地下水にはそれらの成分が含まれます。一方の外輪山を起源とする地下水にはそれらの成分が含まれないため、水質が良質だとされています。
南阿蘇村の湧水は中央火口丘群を起源としています。それにも係らず、名水百選に選ばれるほど良質な湧水に恵まれています。中央火口丘群の噴火によって流れ出した溶岩などは北側の阿蘇谷へ流れ、南阿蘇村のある南郷谷は比較的古い堆積物によってつくられているため、火山成分の影響をあまり受けていないのです。一方の阿蘇谷では外輪山を起源とする湧水池が多く、良質な水が得られるのです。カルデラの中は単に湧水が多いというだけではなく、巧妙な自然の仕組みによって良質な湧水が多いのです。


水の里であり続けるための活動
 南阿蘇村は清らかな水源の里です。水を汚してしまったならば、村で使う水だけでなく、下流域の水までも汚すことになってしまいます。川の水も地下へ浸透し地下水の一部となり、何年か後には多くの人に利用されることになります。そこで南阿蘇村湧水群では保存会や地元の住民によって池や池の周辺の清掃活動などが行われています。
阿蘇は火の山であると同時に水の山でもあるのです。千年以上に渡り人の手によって草原が保全されてきたように、美しい水もまた人の手によって清らかさを維持しているのです。

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