水の話
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生命力に優れた護岸の貝

動けないから干潮時の水面上でも生きられる

 岸壁や橋脚といった満潮時は水面下、干潮時には水面上となる潮間帯といわれる場所にもカキは生息しています。岩などに一度付着したカキは、一生、その場から離れることができません。自らエサのある場所へ移動することができないということです。同時に潮間帯に固着してしまったならば、その場所で一生を過ごすしかないため、水面上で直射日光が当たる厳しい環境でも生きられるようになったのです。実際、水から出されたままでも、1週間くらいであれば生きているようです。
カキのエサは植物プランクトンで、大量の海水と一緒に吸い込みエラで濾しとります。呼吸をしているときでも同時にエラから海水を吸い込み、エサを摂取しています。こうして体内に大量の水分を含むため干潮時に長時間水面より上に体をさらしていても平気なのです。ただし、常に水中にいてエサを捕食できるカキに比べてエサをとる量が減ってしまうため、潮間帯のカキの成長は遅くなります。
また動かない分、エネルギーの消費が少なく、筋肉を発達させる必要もありません。取り入れた栄養は内臓などの成長に使われ、蓄積していきます。
内臓の中でも特に大きな割合を占めるのが生殖腺です。
カキが海のミルクと表現されるのは、身の色や食感だけでなく、このように筋肉が少なく、柔らかく栄養豊富な内臓が中心となり、独特の食感になるからです。カキは他の貝に比べ含まれている亜鉛が多く、普通の二枚貝の約5~6倍もの量が含まれています。亜鉛は新陳代謝を活発にして肌を美しくする効果を持つといわれています。


カキ中身
潮の引いた水面上でもカキが生息できるのは、体内に大量の海水を取り入れているからです。


牡蠣の固着
カキは岩だけではなく養殖筏の木やロープにも固着します。ただし、水面に近いと、他の生物のために成長が妨げられることがあります。


産卵量で決まるカキの寿命

 カキ殻の表面はかなりでこぼこしています。さらによく見ると何段もの層状になっています。この段層の数によってカキの月齢がわかります。大潮から大潮までで一つの段層から次の段層まで成長します。つまり約14日ごとにカキ殻に1つの段層が作られます。
養殖カキの寿命は一般に1年程度とされています。カキは一生のうちで産卵する量がほぼ決まっており、たくさん産卵をすれば早く寿命が尽き、産卵量が少ないと寿命が延びるといわれています。栄養が豊かで水温も温かい海であれば成長が早く、一度に産卵する量も多くなるため寿命は短くなります。逆に水温が低く、栄養分も少なくなれば寿命は長くなる傾向にあるようです。こうした条件によっては4~5年は生きられるものもいるようです。



カキ殻
カキ殻はいくつもの層が重なり合うようになっていますが、大潮から大潮までの間に1つの層が作られます。


ひび立てから始まったカキ養殖

 日本ではさまざまな魚介類が養殖されています。魚ではブリ(ハマチ)やクロダイ、ウナギの養殖がよく知られています。貝類もアサリ、ハマグリ、ホタテ、真珠貝など多くの魚介類が養殖されています。こうした養殖の中でカキの養殖も江戸時代の初期に始まったとされています。最初の頃の養殖法は竹などの「ひび」を海中に立て、そこへカキを自然に付けさせるというものでした。
養殖とは一定の区域(水域)で人が管理して繁殖や成長、収穫までを行なうことです。採卵、受精、孵化をさせ、生け簀などで区切りエサを与えて育てるような、すべてを人の手に委ねるのを完全養殖といいます。ウナギのように生まれて間もない天然の稚魚を捕獲して養殖する場合も一般には養殖と呼ばれていますが完全養殖ではありません。サケのように採卵し、人工的に受精させてふ化した稚魚を放流し、その後は自然に任せるような場合はふ化事業であって養殖とはいいません。
カキの場合も海中へひびを立て、そこにカキの卵が付着するのを待つだけならば養殖というよりも生育に適した環境を整えただけといえるかもしれませんが、岩に付着した場合とは違い、ひびは人が移動させることが可能です。ひびを利用したカキ養殖は海を立体的に利用することになり、同じ海水面であれば、より多くの収穫が得られます。但しひびが利用できるのは干潟のような浅い海域です。
カキの養殖が本格化したのは大正から昭和にかけてです。現在、一般的に行なわれている垂下式養殖法は三重県の的矢湾で最初に始まりました。この養殖法を最初に考案したのは三重県の水産学者、佐藤忠勇(さとうただお)という人で、真珠筏にカキが付着し成長していることを発見したことがきっかけでした。垂下式養殖法は筏からカキの稚貝を付けたホタテの貝殻を水中に垂らして育てるため、水深が深くても筏を並べるだけですむので、養殖の可能な水域を広げられます。


養殖
養殖作業風景
マガキの養殖でよく行なわれているのがホタテの貝殻に幼生を付着させ筏から海中に吊るす垂下式養殖です。成長したカキはホタテの貝殻から外して籠に入れ、再び海中に吊るしますが、その時、カキに付いた海藻などの汚れを取り除きます。


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