水の話
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生命力に優れた護岸の貝

荒廃の著しい人工林

 森林が持つ水源涵養、洪水防止、水質改善などの機能の重要性が広く認識されるようになったのは、林業の衰退によって山が荒れるようになってからです。荒廃している森林の多くは日本の森林全体の約7割を占める民有林です。民有林は県市町村といった自治体が所有する公有林と個人や法人が所有する私有林に分けられます。
森林の中でも特に荒廃の進んでいるのが人工林です。神奈川県の場合、平成15年度に公表された人工林調査結果によると県内の森林のうち69%が私有林で、その中の29%が人工林です。さらに人工林の中で適正に手入れが行なわれている森林は14%だけです。
山林が荒廃した一番の理由は木材価格の低下です。何年もかけて育てたスギでも間伐材では1本が半年間で出荷できるダイコン1本と同じ価格だといわれています。これでは山林経営が成り立たず、山の手入れを行なうこともできません。特に私有林の場合、山の手入れをするために人を雇うこともできません。しかも山林作業に従事する人の高齢化も問題となっています。
木は生長の度合いによってさまざまな使い方をされ、間伐材にも商品価値がありました。しかし間伐材が使われなくなった現在では、たとえ間伐をしたとしても、そのまま山の中に放置されてしまいます。こうした現状を解決するにはどうしても行政の力が必要になってきます。
民有林の中でも特に私有林は経済的理由で思うように山の手入れが行なわれなくなっています。そこで森林整備を行なうための費用を山の恩恵に預かっている住民に税金として負担してもらおうという自治体が増えています。
こうした森林保全を目的とした「環境税」は2003年に高知県が最初に導入し、その後、多くの自治体が導入しています。税金の名称は自治体によって「森づくり県民税」「森林環境税」「水と緑の森づくり税」「水源環境保全税」などさまざまです。基本的な内容は同じですが、森林の水源涵養機能、大雨などの土砂災害や洪水防止、生物多様性の保全、レクリエーションの場の提供などのどこに重点を置いているのかによってそれぞれ名称も違っているようです。


間伐材を利用
河畔などへの土砂流出を防止するため、間伐材を利用することで、間伐材の利用と山の保全の2つの効果が期待できます。
(写真提供:神奈川県)


新しい森づくり

 税金は道路や下水道整備、福祉、教育といった公共のための費用として使われます。税金にはいろいろな種類がありますが、納める先によって国税と地方税に分類されます。地方税には県税と市町村税があり、さらに税金の使途が決まっている目的税と使途を特定しない普通税があります。
森林環境税や水源環境保全税は森林や水源の保全を目的とした事業を行なうための地方税です。つまり、最初から使う目的が明確な税金です。税金を納めるのは森林がある地域に住んでいる人だけではなく、森林の機能を享受している住民です。各県の税額は平均して納税者一人当たり年間1,000円程度のようです。
森林環境税や水源環境保全税で行なうのは、山林機能の回復です。ただ山林にはさまざまな機能があります。荒廃した山林を再生するための間伐、枝打ち、下草刈り、植栽、山林作業を行なうための作業道の整備といったことから土砂崩れ防止対策、水質浄化のための対策など、どれをとっても、短期間で完了できるようなことではありません。




森林の保護で暮らしと健康を守る

 森林整備によって水源涵養機能や土砂流出防止の回復とともに、水質の保全も重要な課題となっています。森林には水質浄化機能もありますが、民家などからの生活排水がそのまま河川へ放流されてしまうと、森が作り出したきれいな水を汚してしまいます。水源地での水の汚れは、下流域で使用する上水道にも影響を与えてしまいます。
水質の中でも最近特に問題となっているのが窒素とリンです。窒素もリンも植物の生育にとっては重要な栄養ですが、これらが湖沼などへ大量に流入すると植物プランクトンの大量発生につながり、最終的に水質の悪化につながります。
さらに最近では窒素が大量に含まれた地下水などを飲用すると、健康に悪い影響を与えることも分かってきました。水源地は水の確保だけではなく、人の健康にとっても重要な意味があるのです。


広葉樹林
広葉樹林の多くは植栽ではなく自然に芽生えて生長したものです。こうした森も放置しておくのではなく、ある程度は人の手で管理した方が森としての健全さが保たれるようです。


手入れが施された森
間伐や枝打ちなどの手入れが施された森は林床にまで日が届き、下草も生えています。(写真提供:神奈川県)



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