熊野灘とリアス海岸

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山と海が織りなす絶景

海岸の波打ち際近くまで山が迫っています。入り江の奥まった辺りに川が流れ込み、わずかな平地と立ち並ぶ家が見られます。ここはリアス海岸として知られる三重県の漁村です。

美しい風景と自然の営み

 日本にはリアス海岸と呼ばれている場所がいくつかあります。中でも岩手県の三陸海岸、三重県の志摩半島から熊野灘に沿って西へ延びる海岸、京都府から福井県にかけての若狭湾などが知られています。いずれも古くからの港がたくさんあり、漁業が盛んです。複雑に入り組んだ海岸線が美しい風景をつくりだしています。海がなければ、山の一部のような風景です。日本にはこうした風光明媚なところがたくさんあります。
 日本列島は北米プレート、ユーラシアプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートの4つのプレートがぶつかりあう場所に成り立っています。プレートがぶつかりあう場所は火山が多く、地震もよく発生します。地球のダイナミックな動きによって日本アルプスのような山岳地帯や、数多くの島々が形成されたのです。さらに降水量も多く、山岳地帯に降った雨や雪は山肌を削り取り、急峻な地形を形づくりながら土砂を海へと運びます。山から流出した土砂は平野や美しい砂浜をつくります。
 火山噴火や地震、あるいは豪雨などにともない地表面が隆起したり陥没したり、あるいは削り取られます。地球が太古の昔から繰り広げて来た自然の営みです。その結果、日本には変化に富んだ美しい風景を多くの場所で見ることができる一方で、ある時は大きな自然災害が発生します。日本に美しい風景が多いということは過去において自然の変化がたくさんあったということにもなるのです。変化に富んで複雑な形をした自然の風景は、災害を受けやすくなる側面もはらんでいます。

すぐ背後まで山が迫る海辺に建つ民家。リアス海岸ではこうした風景がよく見られます。

スペインの入り江を意味するリアス海岸

 海岸にはさまざまな形があります。河口付近は上流から流されてきた砂によって干潟や砂浜がつくられます。潮の流れなどによっては海岸沿いに長い砂浜が形成されることがあります。また、砂や砂利ではなく、岩によってつくられている海岸もあります。隆起した岩が波によって削り取られて平らになったところもあれば、地表へ流出したマグマが冷えて固まり、海の浸食作用によって断崖を形づくっているところなどさまざまです。
 地盤沈下や海水面の上昇によって海岸となる場所もあります。そうしてつくられた入り江を溺れ谷と呼んでいます。さらに、起伏の多い山地が海になった場合、入り江が連続してつくられていきます。こうした地形はリアス海岸と呼ばれています。複雑な海岸をしたスペインのガリシア地方で呼ばれていた入り江を意味するリアに、複数形の“s”をつけたものです。最近はリアス式海岸ではなく、リアス海岸と表記される場合が増えています。
 入り江になっているのはかつて谷であった部分で、半島状になっているのは尾根であった部分です。入り江の奥に川が流れていることもありますが、大きな川は見当たりません。大きな川があると上流から流出した土砂の堆積によって、平野がつくられていきます。
 リアス海岸が形成されるには波によって海岸があまり削られない固い岩盤であることも条件となります。
 日本は長い海岸線があります。岩手県の三陸海岸は総延長が700km以上あります。紀伊半島の東部にある三重県の海岸線の延長はさらに長く約1,100kmで、全国の都道府県中8位の長さを誇っています。三重県は南北に細長いということもありますが、伊勢志摩地域から尾鷲市にかけての熊野灘沿岸がリアス海岸となっていることも、海岸線が長い理由となっています。
 リアス海岸は入り江が多いというだけではなく、いくつかの特徴があります。もともとが深く削られた谷のあった場所のため、一般的に入り江の水深は深く、複雑に入り組み、奥へ行くほど狭くなっています。そのため津波が押し寄せると波が高くなりやすく、被害も大きくなりがちです。
リアス海岸がつくられたのは氷河期が終わり、海水面が上昇をしはじめたリアス海岸が形成されるには波によって海岸があまり削られない固い岩盤であることも条件となります。  日本は長い海岸線があります。岩手県の三陸海岸は総延長が700km以上あります。紀伊半島の東部にある三重県の海岸線の延長はさらに長く約1,100kmで、全国の都道府県中8位の長さを誇っています。三重県は南北に細長いということもありますが、伊勢志摩地域から尾鷲市にかけての熊野灘沿岸がリアス海岸となっていることも、海岸線が長い理由となっています。  リアス海岸は入り江が多いというだけではなく、いくつかの特徴があります。もともとが深く削られた谷のあった場所のため、一般的に入り江の水深は深く、複雑に入り組み、奥へ行くほど狭くなっています。そのため津波が押し寄せると波が高くなりやすく、被害も大きくなりがちです。
 リアス海岸がつくられたのは氷河期が終わり、海水面が上昇をしはじめたリアス海岸が形成されるには波によって海岸があまり削られない固い岩盤であることも条件となります。  日本は長い海岸線があります。岩手県の三陸海岸は総延長が700km以上あります。紀伊半島の東部にある三重県の海岸線の延長はさらに長く約1,100kmで、全国の都道府県中8位の長さを誇っています。三重県は南北に細長いということもありますが、伊勢志摩地域から尾鷲市にかけての熊野灘沿岸がリアス海岸となっていることも、海岸線が長い理由となっています。
 リアス海岸は入り江が多いというだけではなく、いくつかの特徴があります。もともとが深く削られた谷のあった場所のため、一般的に入り江の水深は深く、複雑に入り組み、奥へ行くほど狭くなっています。そのため津波が押し寄せると波が高くなりやすく、被害も大きくなりがちです。
 リアス海岸がつくられたのは氷河期が終わり、海水面が上昇をしはじめた今から約10,000年前頃から7,000年前までとされています。

三重県のリアス海岸(右)は大きな湾の中にいくつもの小さな湾が抱かれている感じですが、
三陸のリアス海岸(左)は比較的大きな湾が連なっているようです。

フィヨルドとリアス海岸の違い

 リアス海岸とよく似た地形にノルウェーやチリ南部などで見られるフィヨルドがあります。リアス海岸はもともと谷であった場所に海水が入り込んでつくられ地形であるのに対し、フィヨルドは氷河によって削られた谷に海水が入り込んでつくられた地形です。リアス海岸の入り江の断面がV字型であるのに対し、フィヨルドはU字形をしています。さらにフィヨルドは湾口から湾奥までの幅があまり変わらず、湾沿いは断崖絶壁となり、湾の奥行は長いもので200kmに達するものがあります。日本にはフィヨルドとされる地形はありません。
 リアス海岸のある場所はかつて山地であったため平地は多くありません。その平地も大抵は入り江の奥にあります。集落は平地に形成されるのが普通です。そして他の地域へ行くには背後にある山を越えなければならないことが多く、陸地の交通手段が十分発達していない地域もあります。一方で複雑に入り組み水深の深い入り江は天然の良港となり、漁業が栄えてきました。

紀伊半島のリアス海岸

 紀伊半島は本州のほぼ中央部から太平洋に向かって南へと突き出し、沖には黒潮が流れています。半島の南東部は黒潮が近くを流れ、温暖な気候となっています。
 紀伊半島には三重県の他に和歌山県にリアス海岸があります。2つのリアス海岸の間には、熊野市から新宮市まで、七里御浜と呼ばれる20数kmにも及ぶ砂利浜が続きます。七里御浜の南の端は紀伊半島でもっとも流域面積が広く、勾配も急な熊野川の河口です。
 ところで黒碁石として有名な那智黒石は和歌山県の那智ではなく、三重県の熊野市が産地です。川によって七里御浜へと運ばれた石は太平洋の波で磨かれ、やがて美しい光沢を放ちます。七里御浜では波の浸食作用によって鬼ケ城や獅子岩などの奇岩も見られます。また、アカウミガメの産卵地としても知られています。
 熊野川は奈良県にある大峰山系の山上ケ岳・稲村ヶ岳・大普賢岳の間を水源として天ノ川、十津川と呼ばれ、大台ケ原を源流地帯とする北山川と合流する辺りで三重県と和歌山県との県境となり、新宮市で熊野灘へと注ぎます。かつては新宮川と呼ばれていましたが1998年(平成10年)から、地元で呼ばれていた熊野川に名称が変更されました。ただし、水系名としては新宮川水系のままです。北山川の上流にある大台ケ原は日本屈指の多雨地帯として知られています。深山幽谷の風景は、太古のままの自然をいまに伝えているようです。荒々しさと美しさを兼ね備えた風景は神々が創り出した神聖な場所を連想させます。そして熊野の地は人々の信仰を集めるようになっていきます。

左:熊野灘へ注ぐ熊野川は、紀伊半島の中で流域面積がもっとも大きな川です。
右:三重県と和歌山県にあるリアス海岸の間には20数kmにも及ぶ砂利浜が続きます。

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