熊野灘とリアス海岸

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豊かさと厳しさを併せ持つ海

栄養塩を回収し、海を浄化

 ノリ養殖の多くは河口付近の海域で行われています。川が上流から栄養分を運んでくるため、おいしいノリが育つのです。もちろん青ノリも水中の窒素やリンなどの栄養塩を吸収して生長するため、水の汚れを防ぐ役目をしてくれます。
 海草のアマモは海藻とは違い海底に根を張り、海底の砂などを安定させます。陸上の樹木が風の動きを抑えるように、波の動きを抑えてくれます。そのため、水中の濁りが沈殿しやすくなります。しかも魚や貝、エビやカニなどの生きものが身を隠すことが出来るため、産卵場ともなっています。これらの小動物をエサとする小型の魚介類がアマモ場周辺に集まり、さらにそれらを求めて大型の魚が集まってきます。アマモが生えている場所は、生えていない場所に比べ、生きものの種類や量が2倍から10倍も違うといわれています。
 また、コンブ科の海藻であるアラメは水深2の岩礁上に海中林を形成します。アラメはアワビやサザエのエサとなり、魚介類の産卵や成育の場にもなっています。海藻や海草は海をきれいにし、豊かな生態系をつくり出す役割をもっているのです。
 真珠養殖の母貝として知られるアコヤガイのエサは主に植物プランクトンです。それをエラから取り入れて食べるのですが、その時に海水を濾過します。真珠を採取する時に、アコヤガイを海中から陸へと運び出すため、海の浄化に一役買っています。養殖の仕方を工夫すれば、アコヤガイは海水をきれいにしてくれるのです。

リアス海岸に立地する漁村では、一部にいまも汲み取り式トイレが使われているようです。

ライフラインの中で復旧に手間取る下水道

 海を汚さないように浄化槽や下水道の整備が進められています。ところが地震や大きな津波などに襲われると、汚水処理施設の機能が止まってしまうことがあります。
 自然災害によって地域が打撃を受けた場合、ライフラインをどれだけ早く復旧できるのかが被災地復興の鍵になるといわれています。ライフラインとは主に、電気、ガス、水道、さらに通信、交通といった日常生活に必要なインフラ設備を指しています。災害の種類にもよりますが、被害を受けたライフラインの復旧状況を見ると、電気、通信関係は比較的早く復旧し、次にガス、上水道、最後に地中に埋められている下水道という順になっているようです。上水道は圧力をかけて送水しますが、下水の場合は自然の流れに任せているため、被害箇所を特定しにくいことも復旧には時間が必要となっています。
 電気、ガス、上水道といったエネルギーや水は人が生きていく上で必要なものです。一方、下水は一度使われたものであり、いわばゴミと同じようなものです。そのため、ライフラインのなかでも、どちらかというと関心が低いように思われます。
 東日本大震災でも、多くの地域で下水道が被害を受けました。下水は基本的に自然流下させて処理場まで汚水を流します。土地が隆起したり陥没をすれば下水管を敷設し直さなければならなくなってしまいます。さらに処理場が大きな被害を受けていれば、復旧には多くの時間がかかり、その地域全体の生活に大きな支障をきたすばかりか、海を汚す結果となってしまいます。

湾奥にある集落では、海と民家の間のわずかな空間に堤防がつくられていました。

人と海との新しい関係

 地形が複雑に入り組み、山が海に迫っているリアス海岸のある地域は、生活排水対策の整備が遅れているといわれています。しかも災害に遭うと他のライフラインに比べ復旧が遅れがちとなります。
 そこで見直されているのが生活排水を個別に処理する浄化槽です。浄化槽は下水道が敷設されるまでの生活排水処理のための手段と捉えられていましたが、安い建設コスト、短い工期で完成させることができ、下水道と同等の処理水質が得られるということから、財政的に逼迫している自治体などから注目されています。
 特に災害時には地域全体の生活排水処理施設の復旧をしなくても、被災した浄化槽を補修するだけで使用が可能となります。
 リアス海岸などの自然が美しい風景の地域は、自然災害を受ける可能性も孕んでいます。いま、志摩の海ではアマモ場の再生、干潟の再生、海を汚さないようにする養殖技術などにも取り組んでいます。その一方で里海づくりにも取り組んでいます。里海づくりとは、単にかつてのような美しい海を取り戻すというだけではなく、沿岸の暮らしなど、陸と海が一体となり、人と海との新しい関係を築いていこうというものです。生活排水をいかに処理していくのかも、里海づくりにとって重要な課題となっています。

避難経路と書かれた看板の先には、お寺のある高台へと続く長い階段が見えます。

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