神奈川県の水源の一つになっている相模湖。
人工的な砂浜や干潟、浅場の造成、アマモ場の再生など、里海づくりの取り組み方はさまざまです。カキやノリの養殖などによって水質の浄化を試みている人たちもいます。こうした海を蘇らせる直接的な取り組み以外にも、植樹や間伐をして荒れた山の手入れをおこなうことで川の水を浄化し、海を浄化しようという取り組みもあります。これも里海づくりにとっては大切なことです。もちろん山がきちんと整備されたとしても、川や湖を生活排水などで汚さないようにすることも大切です。
特に川の上流域は都市で使用する水道水源になっています。神奈川県の主要な上水道の水源となっているのは相模原市です。相模原市は平成18年(2006年)と19年(2007年)に津久井町、相模湖町、藤野町、城山町を合併したことで、津久井湖や相模湖などの水源ダムを持つことになりました。津久井湖や相模湖へ流入する桂川(相模川)の上流は山梨県を流れています。昭和60年頃からこれらのダム湖にアオコが発生するようになりました。そこで神奈川県は湖底にエアレーションを設置して湖水を撹拌したり、下水道の整備によってアオコの発生を抑える取り組みをしてきました。
しかし、津久井湖や相模湖のある津久井地域は山間部が多く、下水道整備が思うようにはかどらず、単独浄化槽の比率が高くなっています。そこで相模原市では下水道整備計画を見直し、平成19年(2007年)からは補助金制度などを活用し、窒素やリンも除去できる高度処理浄化槽の整備促進に力を入れてきました。さらにダム湖への集水域での高度処理浄化槽の設置費用は市が負担しています。単独浄化槽から高度処理浄化槽へ転換する場合は撤去費用も負担しています。
市で負担するのは公共下水道と同じだという考え方で、浄化槽の維持管理も市がおこなっています。こうした費用の一部には神奈川県が平成19年(2007年)から導入した水源環境保全税からの水源交付金も活用されています。
単独浄化槽から高度処理浄化槽への転換をおこなうのは、主に住居の建て替えをする時ですが、住民の高齢化によって、住まいの更新がなかなか進まないことがネックとなっています。そこで市は平成25年(2013年)から地域を絞り込んで住民説明会を実施しています。また、津久井地域では単独浄化槽から高度処理浄化槽への転換を進めている団地も現れています。
水源であるダムの水質改善のため、単独浄化槽から高度処理浄化槽への転換を進めている団地もあります。
横浜市は近代下水道発祥の地といわれています。下水道普及率は99.8%(平成24年度)と、全国平均の76.3%に比べると高い数字ですが、100%にはなっていません。地形などの関係で、下水道整備が困難な地域があるからです。しかも将来的に下水道を引く計画のない地域があります。そうした地区の一つが臨海地区の工業地帯です。
臨海地区は昭和40年代から埋立てによって造成されてきました。下水は基本的に自然流下方式で下水処理場まで運ばれますが、臨海地区は標高が低く、しかも埋立地が水路によって島のようになっているため、下水管を埋設できないのです。そのため、多くの事業場ではいまも建設当時に設置された単独浄化槽が使われています。
広い敷地の事業場の場合、作業場との距離が遠くに離れないよう、トイレが点在していることもあります。臨海地区ではたくさんの人が働いているため、規模の小さな事業場であったとしても全体としてみると、排出される生活排水はかなりの量となってしまいます。
こうしたことも、東京湾の水質改善がなかなか進まない原因の一つになっています。
国土交通省、農林水産省、環境省の3省が連携した「持続的な汚水処理システム構築に向けた都道府県構想策定マニュアル」が平成26年(2014年)に策定されました。2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定されています。東京都港区にあるお台場海浜公園はトライアスロンの会場として予定されていますが、水質は国の環境基準を満たしていません。海は一つに繋がっています。東京湾に接する地域全体が水質浄化に取り組むことが大切です。公益社団法人神奈川県生活水保全協会は、平成26年(2014年)から臨海地区の企業に対し、単独浄化槽から合併浄化槽へ転換する活動に取り組みはじめています。
東京湾の浄化を進めるには単独浄化槽をいかにして合併浄化槽へと転換していくのかが大きな課題の一つです。こうした取り組みも里海づくりといえるのです。
海岸にコンビナートが立ち並ぶ臨海工業地帯が広がる場所であっても、豊かな生態系の海にすることは可能です。