「琵琶湖を守りたい」、その思いは琵琶湖とともに生きてきた地域の人々にも培われ、健全な琵琶湖を次世代に引き継ぐためのさまざまな活動に取り組む人たちがいます。
かつて、県職員として琵琶湖の水質調査に携わってきた野村潔(のむらきよし)さんは、定年退職した現在も『びわ湖調査隊』を結成し、独自の調査を行っています。「行政で行う水質調査の多くは湖の沖合の水を採取しますが、人が湖の状態を判断するのは岸からの景観や臭いなどの感覚です。だから、湖岸側の水質や、見た目や臭いなど人間の五感を指標にした調査が必要だと感じました」。そこで野村さんは、水の濁りや感触、ゴミ・泡・油膜等の景観、臭気などの10項目を掲げたチェックシートを作成し、県民に配布しています。「県民が各自で診断をすることで、常に琵琶湖への関心を持っていてほしい」と語ります。
葭葺(よしぶ)き屋根の職人である竹田勝博(たけたがつひろ)さんは、伝統的な葭葺きを産業として継承しつつ、ヨシ文化を未来に伝えようと活動しています。葭葺き屋根の葺き替えや修繕を行いながら、現在も7、8人の職人を雇い、後継者の育成にも取り組んでいます。「ヨシは刈ることで刺激され、質の良いヨシが育ちますが、同時に刈り取ったヨシは活用しなくては意味がありません。今は中国製の安いヨシが輸入されたり、建築基準法などによって葭葺きの屋根を建てられないなどの問題がありますが、昔から続く地元のヨシ活用に目を向けてもらいたい。
野村 潔さん
NPO法人 預かりものを戻す会理事
竹田 勝博さん 葭留 四代目
さらに私たちが汚した水を浄化したヨシを活用することは、環境浄化保全にもつながる大切なことなのです」。また近年は、新しいヨシの活用を見出そうと『西の湖ヨシ灯り展』を行っており、このイベントでは、市内の小中学生を中心にヨシの造形作品を制作、展示しています。「ヨシは、雨が湖に運んだ土壌汚染物質を浄化し、さらに葉で二酸化炭素を吸収します。つまり、水・土・空気という私たちが生活する自然環境すべてを浄化してくれている。ヨシに親しむことで、多くの人にヨシの価値を再発見してほしいと考えています」。先祖から受け継いだヨシ地を大切に守り、育てるとともに、暮らしの中に活かしていくことが未来につなげることだと竹田さんは考えています。「ヨシを活用していくこと、それが私の役目だと思っています」。そう、力強く、温かく語ります。
葭葺き屋根工事を行う葭留では、現在、東近江市にある永源寺本堂の屋根の修理を行っています。
職人が丁寧に傷んで減ったヨシを補充しています。