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日本の湖の3分の1は汽水湖 |
河口域で海水と淡水が混ざり合えば、規模や性質は別としてもすべて汽水域だということができます。そして汽水域として、もう一つ見逃せないのが汽水湖といわれる水域です。
日本には主要なものだけでも483の自然の湖があります。湖には成因によってカルデラ湖、堰止湖、火山湖、断層湖などがありますが、このうちもっとも多いのは堰止湖で180、次に多いのが海跡湖で104となっていますが、その大部分は汽水湖です。海跡湖を簡単に説明すれば、もともと海であった場所が何らかの理由で塞き止められ、湖になった所です。そのため、海からの影響が強く、塩分濃度にはかなりの差があるものの、基本的には汽水湖となっています。しかも、汽水湖は日本の全湖の表面積のうち、じつに3分の1を占めているのです。日本で最も大きい湖は琵琶湖で、表面積は673.8平方km。日本の全湖の表面積は2,380.08平方kmですから、琵琶湖だけで日本の湖の表面積の3分の1近くを占めていることを考えると、汽水湖がいかに大きな割合を占めているかがわかります。
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日本最大の汽水域 |
島根県の宍道湖と中海を両方あわせると、日本最大の汽水域です。日本海側の幅200~400m、長さ約7kmの境水道で中海は海と結ばれ、さらに中海の奥からは長さ8kmの大橋川が宍道湖をむすんでいます。いづれも汽水湖ですが、性質にはかなりの差があります。最も大きな違いは塩分濃度です。境水道でつながっている中海には海水がくさび状に入り込みます。そのため、湖中央部の低層部の塩分濃度は25~30‰と高くなっていますが、表層部では16‰と低くなっています。 |
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中海(左)と宍道湖(右)
島根県にある宍道湖と中海は長さ約8kmの大橋川で結ばれています。どちらも汽水湖ですが塩分濃度にはかなりの差があり、そこにすむ生き物の種類も異なっています。
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ところで、夏は表層の水が太陽熱によって温められます。表層の水は低層よりも塩分が少ない軽い水です。それが温められることによって、さらに軽くなります。底にある塩分濃度の高い水は温められることもなく底に滞ったままとなります。つまり、上と下では明らかに塩分濃度の異なる水に分かれてしまうのです。この境界線を「塩分躍層」と呼んでいます。もしもこの状態が続いたならば、どういうことになるのでしょうか。当然、下にある重い水の酸素は、有機物を分解するために使われて欠乏していくことになってしまいます。その結果、未分解の有機物を多く含むヘドロが溜まりやすくなってきます。ところが、中海では冬になると北風が湖面の上を吹き、水がかき回されます。つまり、湖底の水の塩分は薄められます。そこで、再び酸素を十分に含んだ新しい海水が湖底へと入り込みます。このような循環があるおかげで、中海の水は急速な水質の悪化を防いでいるのです。
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一方、宍道湖の塩分濃度は湖中央の表層で1.8‰、低層では1.8~9‰と中海に比べかなり低くなっています。では、中海からどのようにして海水が入り込むのでしょうか。宍道湖と中海は長さ8kmの大橋川でつながっているとはいっても、水は宍道湖側から中海へ流れています。もちろん、通常は淡水よりも重い塩水が大橋川の底を這って少しづつ宍道湖へ流入しています。ところが、中海から海水が多量に流入し、宍道湖の塩分濃度が通常よりも高くなることがあります。この海水の流入には気圧が関係しているのです。低気圧が来ると海面は盛り上がり、湖面よりも高くなるのです。宍道湖の水面の高さは海抜30cm、中海は20cmしかありません。そのため、いわゆる高潮の状態となって海水は中海、宍道湖へと流れ込むのです。さらに宍道湖は奥の方が深くなっているため、このようにして入り込んだ海水は大水などで多量の淡水が流れ込まない限り、なかなか外へは出ていかないのです。
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宍道湖の夕景
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