水の話
 
すべての生命がたどった場所

生き物たちの豊かな楽園
 山が魚を育てると言われます。山に降った雨は地中の有機物などを溶かし込み、川となって海へ運ぶからです。汽水湖は、それらの有機物が一気に海へ流れ出る前に、溜めておくという働きをします。その上、水深の浅い場合が多く、底の方まで太陽のエネルギーが届きます。その結果、非常に栄養分の豊富な水域を形作るのです。豊かな栄養は植物プランクトンを育て、さらにそれをエサとする動物プランクトンを繁殖させます。動物プランクトンが増えれば、当然、多くの魚介類が集まってきます。また、魚介類を目当てとした鳥たちもたくさん集まります。汽水湖は生き物たちにとっては、まさに豊かな楽園なのです。
汽水域の川底の様子
汽水域の川底の様子
(三重県・揖斐川)

上流域や中流域と違い、川底には泥がたくさんあることがわかります。

 ところで、富栄養化というと、水質の悪さを表わすような意味として使われることがよくあります。しかし、豊かな生物相を形作っている汽水湖は、富栄養化した水域そのものです。富栄養化は必ずしも悪い意味だけではないのです。要はバランスの問題です。宍道湖にときとして多量の海水が流入する場合があります。外海から来た海水はもともと酸素をたっぷりと含んでいます。生き物たちはその酸素のおかげで成長します。ところが、塩分躍層が作られたままになっていると、海水の酸素はやがて底に溜まったヘドロの分解などによって消費されてしまいます。問題はこうした状態が長期間に及んだときです。湖の底に低酸素の水が滞ったままになれば、そこにすむ生き物たちは生きられなくなってしまいます。自然が本来供給していた以上の栄養、例えば窒素やリンが入り込めば、その時点ではより多くの生物が繁殖するかもしれませんが、それは同時により多くの酸素を消費することにつながり、かえって湖の生き物たちに打撃を与えることになるのです。


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