水の話
 
地下からの便り
寒い冬の朝でも井戸から汲み上げた水は温かく感じられました。反対に夏になると冷たく感じられ、井戸の中へスイカやお茶をいれたヤカンを吊し、冷蔵庫としても使われました。現在では、人力を使って汲み上げなければならない井戸に対し、水道から簡単に水を得ることができます。しかし、簡単になった分、水への関心が薄れてしまったような気もします。

幾重にも重なる地下水の層
 現代こそ化学物質による地下水の汚染が取り上げられていますが、地下水にはもともときれいなイメージがあります。ところで地下水は大きく2種類に分けられます。1つは地表から浸み込み、粘土などの水を浸透させにくい層で止まり、それ以上は浸み込むことのない水です。一般に自由地下水とか不圧地下水とも呼ばれている、比較的浅い場所にある地下水です。当然、地表や海などに近い場合は塩水などの影響を受けやすくなります。

もう1つが被圧地下水と呼ばれているもので、自由地下水より深い場所にある地下水です。山などに降った雨が地層の関係などで、水を通しにくい層の下にまで達した水です。地下にはこうした層が何層にも積み重なっています。被圧地下水は名前の通り、幾層にも重なった土砂や岩石により、かなりの圧力がかかっています。そのため、この層の地下水のあるところまで井戸を掘れば地中の圧力で自噴するか、地表面近くまで上ってきます。

 地下水の流れは年間で数メートルから数百メートルとかなりゆっくりとしています。自由地下水は雨や汚水など地表からの影響を受けやすくなりますが、被圧地下水はあまり影響を受けないため、飲料用としても良好で安定した水が得られます。一方、井戸には深井戸、浅井戸という言い方があります。両者の厳密な区別はありませんが、一般には30メートル以上の井戸を深井戸、それより浅い井戸を浅井戸と呼んでいるようです。江戸のように埋め立てによって作られた町は、浅井戸を掘っても良質な水はなかなか得られません。
浅井戸と深井戸
浅井戸と深井戸
(参考資料:「井戸と水みち」)
 井戸を工法によって分類すると、手掘り井戸と打込み井戸に分けられます。手掘り井戸は井戸穴の中に人が入って掘り進む方法です。作業自体が危険を伴う上、それほど深く掘ることはできません。それに対して打込み井戸は、水が通る程度のパイプをそのまま地中に打ち込む方法です。これとよく似ているのが穴をあけてから水の通るパイプを入れる方法です。その代表ともいえるのが上総掘りで、掘抜き井戸ともいわれています。

人力だけで数百メートルでも掘る上総掘り
 上総掘りが上総地方(千葉県)に伝えられたのは、文化14年(1817)とされています。その後、明治時代に入ってから工夫と改良が加えられ全国的にも有名となり、各地で温泉や油田の掘削、鉱石の探査などにも応用されました。

 上総掘りの特徴は、身近にある丸太や竹といった素材を使い、人の力だけで簡単に深い井戸が掘れることです。先端にノミのついた鉄管を地中に向かって人力で上下させ、穴が深くなるに従いタケヒゴを継ぎ足していくのです。これだけのことで何百メートルも掘ることができるのです。ときには硬い石に行き当たることもありますが、その場合は先端のノミを替えて石を砕きます。そして水のあるところまで掘り進んだら、竹の節を抜いた樋をつないで穴の中に挿入します。壁が崩れて穴が埋らないようにするのと同時に、途中の層から悪水が入り込まないようにするためです。そしてきれいな水を入れ、中に溜まっている粘土水をブリキで作られた筒状の吸口を使って汲みあげます。やがて地下の水は地中の圧力で自噴するか地表近くまで上がってきます。
上総掘りの足場
上総掘りの足場
ノミを付けた鉄管は竹を使った「はね木」(右上の横棒の部分)とひもで結ばれ、はね木はバネとして上下運動を助けます。鉄管を引き上げるときは竹ヒゴをヒゴ車(中央)に結び、この中に人が入って巻上げます。そして掘った穴が崩れないよう、水で溶いた粘土を常に穴の中に注ぎこみます。(袖ケ浦市郷土博物館)
 井戸穴の掘り方そのものは、それほど難しいものではありません。ただ、水のある層を見分けるのには経験が必要です。この層を突き抜けて掘り進んだら水は出てこないからです。掘っているときに手に伝わる感触で水の層に達したかどうかを判断するのです。また、山の斜面などに水平に穴をあけた井戸を横突き井戸と呼んでいます。
横突き井戸 横突き井戸
横に掘るため重力が利用できません。掘るときはノミを取り付けた竹筒を数人がかりで斜面に向けて何度も突つきます。(千葉県袖ケ浦市)

上総掘りの道具 竹筒 小さな穴をあけて周りをシュロの皮で包んだ竹筒を最後に井戸底へ入れます。ここで水が濾過されて竹筒の中に入ります。(袖ケ浦市郷土博物館)
上総掘りの道具
手前にあるのがノミ。中央にある長い鉄管にこのノミを取り付け、さらに竹ヒゴを繋いでいきます。右奥にあるのがシュモクで、これを握り回転させながら突き降ろします。(袖ケ浦市郷土博物館)


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