水の話
 
土を離れて育つ植物―水耕栽培

水耕栽培でつくられた驚異のトマトの木
 1985年に開催された、つくば科学万博のとき、巨大なトマトの木が展示されました。1株に1万個以上もの実をつけ、株元の直径は20cmほどもあり、枝も10m位に広がっています。こうした巨大なトマトの木は「水耕栽培」によって可能になったようにいわれました。では、土の上でもこの巨大なトマトの木を作ることはできるのでしょうか。
実は、植物の中には「無限生長」するものがあり、トマトもその一つです。植物は先端部に「生長点」という部分があります。稲などは、先端部に実をつけることによって「生長点」の活動は終りますが、トマトの場合は実をつけるとその横から再び新たな葉や花をつける生長点が伸びてきて、それを繰り返します。だから、気温や水分、養分などの生育条件さえ整えば、土の上で栽培しても、何年でも成長し続け、巨大なトマトの木が可能となるのです。
ナスやスイカやキュウリも無限生長します。しかし、農業という立場から考えると、巨大なトマトの木やナスの木から実を取る作業はかえって手間がかかり、管理も大変です。あえて手間暇かけて巨大なトマトやナスの木を作る必要がないのです。
一方、養液栽培の場合は、作物が徹底した管理のもとで育てられます。養液の成分や濃度はもちろん、ハウス内の気温、湿度も調整されています。
トマトの木
水耕栽培(養液栽培)という言葉のイメージからは、どこか水っぽいイメージを持ってしまいますが、養液管理が行き届いているだけに、土耕のものより、かなり甘味の強いものも作ることができます。
ミツバのようにほぼ100%を養液栽培で作られているものもありますが、養液栽培面積がハウス栽培面積全体の中に占める割合はわずか1.9%にしかすぎません。(M式水耕研究所)

新しい農業の可能性にもつながる養液栽培
 養液栽培で、さまざまな作物が作られるようになっています。最も多く栽培されているのはトマトで、次いでミツバ、ネギ、イチゴ、サラダナ、キュウリ、となっています。この他にもホウレンソウ、ニンジン、葉ワサビ、ナス、ピーマン、コマツナ、アオジソ、メロンなどの果菜類のほか、ガーベラ、スイートピー、バラ、カーネーション、キクといった花も栽培されています。最近は栽培される種類だけでなく、栽培面積も増加しています。培地の高さを変えることによって、従来ならしゃがんで行っていた農作業が立ったまま、あるいは腰掛けに座って行うことも可能となりました。もちろん、年間を通して安定した供給ができ、商品価値を高めるといったことも可能です。
養液栽培では、作物の生育時期に合った最適のハウス内温度や、養液の成分量、pH、養液温度などを厳密に管理することも可能です。そうしたことによって、露地ものよりもおいしい作物も作れます。これはコンピューターによる管理ができるということです。つまり、これまで必要とされてきた土や作物などに対する長年の経験や勘、知識のない人にも農業が行えるということです。土にこだわらないということは、都会のビルの中で野菜や果物を栽培することも可能となってきます。しかし、収穫後に茎や根など大量の作物残渣が出ます。これらのゴミは、都市の中では処理できません。そこで、特殊な炭焼窯で作物残渣を炭にして、養液栽培の培地として再利用しているところもあります。作物残渣の中に病原菌がいたとしても、炭として焼かれる過程で殺菌されるため、連作障害の危険も大きく減少します。
いま、自然との付き合い方がさまざまな形で問われています。農業についても人間が極力手を付けず、自然のままに任せようという考え方があります。水耕栽培はそうした考え方とは全く逆の方向を目指しています。環境や農業の未来にとって、どちらがいいのかという点についても、大きく意見が分かれています。大切なことは、おいしいものを、安心して食べていけるようにするため、私たちにいまできることは何か、自然とどのように向き合っていけばいいのかを考えることではないのでしょうか。

養液栽培の施設の中は、棚によって芽を出したばかりのものから出荷寸前のものまでが並んでいます。また、どの作物も虫食いのあとも無ければ、土も付いていないので、非常にきれいです。(M式水耕研究所) チンゲンサイ


チンゲンサイ

サンチュ(パオ) ミツバ ネギ
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ピーマン サラダナ レタス
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