しかし、地上を流れる水にも、人々に脅威を振るうことなく静かに流れ続けるものもあります。
若狭と都を結ぶ道は鯖街道とか若狭街道と呼ばれています。鯖街道という名前で呼ばれるようになったのは、いつ頃からかははっきりとは分かっていないようですが、昔から京都などへ海産物を運ぶ、重要なルートでした。それも、幾筋かの鯖街道がありました。
若狭街道の途中、福井県上中町にいまも昔ながらのたたずまいを残す熊川宿があります。もともとは小さな寒村でしたが、最初は戦略上の要地として、さらには交通の要衝地として発展していきました。熊川宿を特徴づけているのが、家並みに沿って流れる前川という用水路です。この用水が作られたのは、いまから約400年前のことです。幅は約1メートルですが、豊富な水が速い流れを作っています。近くを流れる川が水源となっています。ところどころに「かわと」と呼ばれる施設があり、そこで野菜を洗ったり、西瓜を冷やしたり、くるくる回る芋洗い器が掛けられています。
かつては何台もの水車もあり、米つきや油しぼりも行なわれていました。いまも家の前を流れる前川から、雑用に使うと思われる水を汲む人の姿が見られます。都会であるならば、家の前を流れる川ははるか昔にドブ川とされるか、道路の拡張のため暗渠にされていたはずです。ところが熊川宿の前川では、400年前と変わらない透き通った美しい流れがみられるのです。その流れは、これからも人々の暮らしを見続けていくことでしょう。 |
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鯖街道沿いにある「熊川宿」を流れる前川。各家の軒下を流れ、夏には西瓜、冬には水車風の「芋洗器」がかけられるなど、いまもここに暮らす人々にとって、大切な生活用水の一部として使われています。 |
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