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優しさと同時に脅威となる川 |
大野盆地の地下水の灌養に水田が大きく寄与しているのは事実ですが、水源として一番大きな役割を担っているのは、何といっても扇状地を作った真名川や清滝川といった河川で、いずれも九頭竜川の支流です。九頭竜川は、福井県と岐阜県の境となる油坂峠付近に源を発し日本海に注ぐ全長116キロの河川で、九頭竜川の名前で統一して呼ばれるようになったのは明治になってからのことです。それまでは地域によって、崩川、黒竜川、魚留川、鹿鳴川などさまざまな名称が使われていました。九頭竜とは、今から1,100年以上前、僧侶たちが白山の神像を川に投げ入れたところ、九つの頭を持った竜がその神像を持って出現したという伝説によるものです。
竜はもともとが水に関する神様です。しかも、日本の神は決して穏やかな優しいだけの存在ではなかったのです。むしろ、いつ機嫌を損ね、荒ぶる神に姿を変えるのか分からない恐ろしい存在でもあったのです。そのため人々は神の機嫌を損ねないように、常に祈りを捧げ、なだめすかしていたのです。九頭竜川の流域で農耕を営む人々にとっては、まさに生活を左右する神の座す川に他ならなかったのです。
そんな九頭竜川の支流である真名川にも、荒ぶる神は座して度々猛威を振るい、人々の生活を脅かしていたのです。今から1,200年程前、この地方はひどい日照りに見舞われました。村人たちが十文字蛇淵で雨乞いを行なったところ長者の夢枕に竜神が現われ、長者の娘、摩那姫を人身御供(ひとみごくう)として差し出せば雨を降らせるとのお告げがありました。摩那姫が淵に身を投じたところ、たちまち雨が降り、村人は救われたというのです。真名川は摩那姫の名前に由来するといわれ、川が山峡から盆地に入ったところには、摩那姫の供養もかねた弁財天が治水の神様として祀られています。
そして扇状地の形成に寄与しているもう1本の川が清滝川です。清という字が付けられていますが、この川もしばしば氾濫して人々を苦しませてきた歴史を持っています。ただ、本流の九頭竜川に比べれば、まだ清らかな流れだということから付けられた名前だといわれています。
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福井県と岐阜県の境当たりに源を発する九頭竜川。写真右上は山あいから大野市へ入った付近。扇状地が形成されています。写真左は上流部。この川そのものが神でもあるのです。
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