水の話
 
塩は日本中でつくられていた
日本では、塩は海水からつくるというのが当たり前だと思われています。
基本的には海さえあれば塩はどこででもつくることができるのです。事実、江戸時代には日本各地で塩づくりが行われていました。
ところが、明治38年に専売法が交付され国家による塩の専売制度が確立し、その後イオン交換法による製塩などで日本各地から塩田は次第に姿を消していきました。

塩と食卓塩
 かつて瀬戸内海の沿岸では塩づくりが盛んに行われていました。塩は海水から水分を蒸発させてつくられるため、水分が蒸発しやすい条件さえあれば、塩は容易につくることができたのです。瀬戸内海沿岸は雨が少なく夏の気温が高いなど、まさに塩をつくるのに適した条件が揃っていました。
ところで、最近は粗塩(あらじお)とか天然塩などの名称の塩が売られています。これらの塩は一般の塩とはどこが異なっているのでしょうか。
海水が塩辛いのは、主成分である塩化ナトリウムによるものです。海水には微量ですがマグネシウム、カルシウム、カリウムなどの他、実に多くの成分が含まれています。海水を蒸発させただけの塩には、こうした微量成分も含まれているはずです。ところが昭和40年頃、海水からほぼ純粋な塩化ナトリウムだけを取り出すイオン交換法という全く新しい製塩技術が導入されました。それまでの塩よりも白く、さらさらとして食卓塩とか化学塩と呼ばれました。こうした塩が出回る以前の塩は、食卓の上などに放置しておくと湿って固まってしまいました。塩化ナトリウム以外の苦汁(にがり)と呼ばれる成分が空気中の水分を吸収したからです。苦汁の成分は主にマグネシウムを中心としたカルシウム、カリウムなどの成分で、たくさん含まれていると塩の味を苦くします。苦汁を取り除けば苦みはなくなります。しかし、苦汁が微量に含まれている方が、味をよくします。水の場合、純水よりもさまざまなミネラルを含んだ水の方がおいしく健康にも良いといわれていますがこれと同じことが塩にもいえるようです。粗塩とか天然塩というのは、苦汁と呼ばれるさまざまな微量成分が含まれている塩を指しています。

粗塩 食卓塩 粗塩(左)と食卓塩(右)。見た目だけからも、食卓塩の方がさらさらしている感じが分かります。
苦汁
濃縮した海水を煮込んで水分を蒸発させた直後の塩。斜めに渡した板の上に置くと、苦汁(にがり)が自然に下へ流れ落ちます。(伊勢神宮にて)

日本ではほとんど採れない岩塩
 日本では海水から塩をつくることが常識と思われています。しかし、世界では岩塩から塩を採る国の方が圧倒的に多いのです。岩塩というのは、もともと塩水のあった場所が長い年月を経て干上がり、塩だけが残って岩のように固まったものです。中には何十万年もの長期にわたり海水の流入と蒸発が繰り返され、1,000メートルもの厚さをもった岩塩の層もあるようです。
日本ではイオン交換法による製塩技術が考え出されましたが、外国では、主に地下水から塩分を取り除くためにイオン交換法が使われるようです。世界からみれば、地下に塩分が含まれている地域の方が多いということです。
日本でも、わずかながら岩塩の採れる場所があります。例えば長野県の天竜川支流のさらに支流に塩川という名の川があり、温泉が湧いています。ここの温泉に若干ですが塩分が含まれています。しかし、塩として取り出して利用するほどの量ではないようです。
岩塩
長さが50センチはある岩塩。外国ではそれほど珍しいものではありません。不純物が混じっていれば一度水に溶かし、塩水だけを天日などで乾かすことによって、きれいな塩にすることができます。


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