水の話
 
総延長150km、55本の用水

逆サイフォンで堀の下をくぐる辰巳用水
 築城された頃の金沢には用水が数えるほどしかしかありませんでした。城下町としての整備は徐々に進んでいきました。
金沢城はしばしば火災に見舞われています。1602年(慶長7年)には落雷によって天守閣が焼失、1620年(元和6年)にも火災に遭っています。1631年(寛永8年)には城下が大火事となり、金沢城も焼失します。この火災をきっかけに1632年(寛永9年)につくられたのが辰巳用水です。用水路は防火帯の役割を果たすと同時に、消火用の水を確保するためでもあったのです。しかし辰巳用水がつくられた一番の目的は、当時はまだ空堀であった内惣構堀に水を満たすことでした。さらに城内の飲料水の確保といった目的もありました。辰巳用水も大野庄用水と同じように多目的な用水としてつくられたのです。
現在は金沢の中で最も有名な場所の一つとして知られる兼六園ですが、辰巳用水がつくられた頃はまだ庭園としては整備されておらず、武家地であったようです。兼六園は1822年(文政5年)、竹沢御殿として整備されたものです。辰巳用水の水は兼六園の曲水としても使われました。辰巳用水の水は城の飲料用としても使われたのですが、城との間は谷間となって百間堀がありました。そこで堀の下に導水管を通して城へ水を導いたのです。これは伏越(ふせごし)(逆サイフォン)という技術です。サイフォンは、高い場所を乗り越えて低い位置へ水などの液体を移動させることをいいますが、金沢では低い位置を通すため、逆サイフォンと呼ばれています。当初は導水管として木桶(もくひ)が使われていました。構造は角材に凹状の溝を掘り、その上に蓋をかぶせるというものです。1860年代に石管に取り替えられましたが、こちらは石の真ん中を丸くくり抜いたものでした。石管と石管の接合部分からの漏水を防ぐために松脂が使われました。石管の直径からみて、それほどの水量はなかったようです。


兼六園へ辰巳用水が流入していた付近
兼六園へ辰巳用水が流入していた付近。以前は辰巳用水が直接兼六園へ流れ込んでいました。
石の導水管
逆サイフォンに使われていた石の導水管。
水路
兼六園の中を流れた水は、写真の先に見える升状のところから下り、百間堀を潜って二ノ丸へ導かれていました。ただし、この水路は現在は使われておりません。


4kmの隧道をわずか1年で掘削
 逆サイフォンの原理は兼六園にある噴水を見ればよく分かります。この噴水は霞ケ池を水源として、自然の水圧を利用したものです。水柱の高さは約3.5mです。園内には霞ケ池のほかにも瓢池(ひさご)、長谷池などがあり、それらが曲水によって結ばれています。
辰巳用水の水源は兼六園から約11km離れた犀川の上流です。そのうち取水口から4kmほどは堅い岩を掘り抜いた隧道(ずいどう)(トンネル)となっています。かなりの歳月をかけて掘られたのではないかと思われるのですが、実はたった1年で11kmの用水路すべてを完成させています。
隧道内部の高さは約1.9m、幅は約1.7~2.0mです。ツルハシやタガネくらいしかない時代に4kmもの隧道が、なぜ1年で掘削できたのでしょうか。
隧道にはほぼ200m間隔で横穴が掘られています。つまり、最初に何本もの横穴を掘っておき、その先端から同時に上下流へ掘り進み、それを繋いだのです。単純に計算をすれば横穴の数が20あったとすれば、横穴の先端から上下流に1日に約28cmずつ掘れば4kmの隧道も1年で十分に完成させられます。ただ現代のような精密測量機器や掘削機械などはありません。それにも関わらず平均して200分の1の勾配がほぼ正確に保たれています。20カ所の横穴から同時に掘り進めた時に、どうやって左右にずれたり、逆勾配とならないようにしたのでしょうか。
横穴の先端から上下流に掘り進める時、わずかに山側に向かうようにして掘ったのです。そうすることによって上流部と下流部から掘った穴は必ずどこかでぶつかります。また、勾配を測るためには松明(たいまつ)を並べたり、見盤という簡単な道具が使われました。さらに上流へ向かって掘る穴は大き目に、下流部へ向かって掘る穴は小さ目に掘ることによって、万が一勾配がずれていた時にも調整ができるような工夫をしていました。隧道内部の照明は壁面に直接菜種油などを注いで照明として使える「たんころ」と呼ばれる穴をあけました。さらに横穴も明かり取りや掘削土の搬出にも利用されました。

辰巳用水取水口
犀川の上流にある辰巳用水取水口。
隧道の内部
辰巳用水の取水口から続く隧道の内部。普段は入ることができませんが、時々内部の見学をする企画が立てられ小学生たちも見学に訪れます。(写真提供:金沢市都市政策局)

辰巳用水の全体縦断図
辰巳用水の全体縦断図(図では実際の高さから20倍にしてあります)
資料/金沢市都市政策局


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