左:宮さんの川と呼ばれる蓮沼川も、一時は湧水が涸渇し湿地状態になっていましたが、上流部に水を流し、今ではホタルが成育できる水辺環境をつくり出しました。昔の風景を再現した水車が設置されています。
右上:川沿いを歩くと、ほほえましい鴨の姿をあちこちで見ることができます。
右下:源兵衛川を下流へと歩くと三石神社があります。境内にある鐘は「時の鐘」と言われ、江戸時代には三島の宿場に時刻を知らせていたそうです。
市民・企業・行政が一体となって役割を分担して事業を進めていくグラウンドワークの手法を最初に取り入れたのが、「源兵衛川の再生事業」です。市内中央を流れる源兵衛川は、楽寿園の小浜池を湧水源として街のほぼ中央を南下し、中郷温水池に注ぐ延長1.55キロメートルの農業用水路です。自然型の開水路であることから動植物にとっても貴重な生息空間でしたが、家庭雑排水や放置されたごみにより、水辺環境は悪化してしまいました。長い間、抜本的な解決方策が見出せない閉塞状態が続いており、農林水産省の補助事業である農業水利施設高度利用事業、および県営水環境整備事業を適用した、源兵衛川の整備事業が1990年にスタートしました。
源兵衛川の整備を行う上でネックだったのは、川に水が流れていないことでした。水の流れない川を整備しても意味がないため、水を確保するために行政と市民とが一緒になって、地元企業へ「水を流してほしい」と要請したのです。その結果、企業もその想いに応え、湧水の補給用水として水質的に問題のない工場の冷却水(温調用水)を、1時間あたり最高1,500トン放流することを許諾。1年を通して水が安定的に供給されることによって生態系の維持も可能となり、いよいよ整備事業の目的が見えてきました。
事業の推進にあたっては、徹底的に行政と住民との話し合いが行われました。流域の住民や児童を対象とした住民意識、自然環境や地域特性調査をはじめ、川の再生方法や資金の使用方法、事業によってさらに環境を傷つけはしないか等、時間をかけて何回もの勉強会が開催されました。市民の提案を具現化するため、源兵衛川は楽寿園小浜池から中郷温水池までを8ゾーンに区分し、ゾーンごとに異なる整備を実施するなど、「行政」の独りよがりにならない、地域住民の想いとアイデアを取り入れた水辺環境整備を実現することができました。
さらに3年間にわたり、月2回の川掃除、三島市以外の地域の人を取り込んでの「水辺ゴミ拾いツアー」など、連続的なアプローチを実施することで住民意識をつないでいきました。継続的に活動を実施することで、自発的にゴミを拾う人が増加するなど市民の気持ちにも変化が表れました。美しい水環境に戻っていくのに合わせて、厄介者だった川は、再び市民の宝物、守るべきものへと変わっていったのです。