水の話
 
人と自然に深く係る水辺の番人

田鶏とも呼ばれた上品な味
 夜、水辺の近くを歩いていると、どこからともなく牛のような声が聞こえ、気味の悪い経験した人がいるかもしれません。食用ガエルの別名をもつウシガエルです。ウシガエルは、食用として農家が養殖することを目的に、大正7年にアメリカから輸入されました。水田などで繁殖させ、食肉としてアメリカへ輸出し、外貨を稼ぐホープとなったこともありました。現在では、そうした事業は行われず、野性化したウシガエルが、ときとして騒音公害だと槍玉にあげられることもあります。
しかし、カエルはフランス料理をはじめ世界の多くの国で食用となっています。日本でも古くからタンパク源としてトノサマガエルやアカガエルなどが食べらていました。笹身(鶏の胸肉)に似た淡泊な味です。ヒキガエルを食べていたという地方もあるようです。

日本の文化とカエルたち
 平安時代の書家・小野道風は柳の枝に飛びつこうとしているカエルを見て努力することを学んだとされています。花札に描かれているのはヒキガエルのように見えますが、ジャンプ力から考えて、アマガエルだとされています。アマガエルは、指先の吸盤と、体色を変化させることに特徴があります。また、アマガエルは気圧の変化にも反応します。雨が近づき気圧が下がると木の高いところへ登ろうとします。花札の絵でも小野道風は傘をさしています。
カエルが出てくる絵では、平安時代に描かれた鳥獣人物戯画(ちょうじゅうじんぶつぎが)が有名です。これは4巻の絵巻物で、このうちの甲巻に兎と相撲をとったり、弓をひくカエル、あるいは台座に座ったカエルに猿がお経を唱える絵など、いずれもユーモラスに描かれています。これらが何を意図しているのかははっきりしていませんが、ここに描かれているカエルはトノサマガエルです。トノサマガエルは、当時の日本を代表するカエルであったのかもしれません。
松尾芭蕉の「古池や かわず飛び込む 水の音」という有名な句があります。この場合のかわずは何というカエルだったのでしょうか。古池という言葉から静かな場所を連想し、チャポンという小さな音が周囲に伝わったとイメージすれば、アマガエルやアカガエルといった比較的小さなカエルです。ところが、芭蕉がこの句を詠んだのは江戸深川だとされています。そして場所から考えるとトウキョウダルマガエルかツチガエルではないかといわれています。となると、ドッボンといった大きな音であったようです。
花札と小野道風の像
花札に描かれた小野道風の故事と、生誕地・愛知県春日井市に建てられた小野道風の像。花札に描かれているカエルはヒキガエルのように見えます。しかし柳の枝に跳びつくには、枝をしっかりと捕まえられるよう指先に吸盤があったほうが有利です。高いところに飛びつこうとする行動は、アマガエルの習性でもあるようです。

鳥獣人物戯画
鳥獣人物戯画甲巻・蛙の本尊と経を唱える猿の僧正(部分)
(京都高山寺所蔵、写真は東京国立博物館)
鳥獣人物戯画は、鳥羽僧正(1853~1140)の作と伝えられ、平安時代の世相を風刺とダジャレで描いています。擬人化された動物が遊戯や年中行事などに興ずる場面がいろいろと出てきます。カエルを本尊に見立てた猿僧正の法会や、蓮の葉を的にした賭弓(のりゆみ)を行う兎とカエル、倒れたカエルと下手人の猿を追うカエルと兎の追捕使(ついぶし)、カエルと兎の相撲など、見ているだけでも滑稽な雰囲気が伝わってきます。


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