水の話
 
人と自然に深く係る水辺の番人

田んぼで鳴くカエル
 田んぼといえば、カエルがつきものです。田植えが済んで間もない田の中を覗くと小さなオタマジャクシがたくさん泳いでいます。オタマジャクシがカエルの子だということを知らない人はいないでしょうが、そのオタマジャクシがどんなカエルになるのかを知っている人は少ないようです。カエルの卵はヒモ状になっていると思っている人がいるかもしれませんが、ヒモ状の卵はヒキガエルの卵です。トノサマガエルの卵は1,000~4,000個の卵が、直径20cmほどの固まりとなっています。ウシガエルの卵は直径50cm位の大きさの固まりですが、水面に薄く伸ばしたように広がっています。しかも、この卵塊の中に、6,000個から多いものでは4万個もの卵が入っています。ウシガエルのオタマジャクシは他のオタマジャクシに比べると巨大で、12~14cmもあります。
産卵時期もカエルの種類によって異なります。地域によって差はありますが、早いものがアカガエルで2~3月頃に産卵を始めます。そしてヒキガエル、シュレーゲルアオガエル、アマガエル、トノサマガエル、ダルマガエル、ツチガエルなどと続きます。オタマジャクシからカエルへと変態しても、すぐに卵を産むわけではありません。生まれて2~3年たち大人にならないと産卵ができません。カエルが鳴くのは主に繁殖のためです。水田から聞こえるカエルの歌は、アマガエル、シュレーゲルアオガエル、トノサマガエル、ダルマガエルがほとんどです。そのため、カエルは梅雨時の生き物と思われているのです。

タゴガエル 沢
タゴガエル卵
山地の沢がある場所(写真右)とその周辺にすむタゴガエル(写真左上)。繁殖期になるとオスの皮膚はダランと伸び、全く別のカエルに見えます。主に水のある岩の裂け目に産卵します。
タゴガエルの卵(写真左下)は、卵数30~160個位で少ないのですが、粒が大きく真珠のように見えることもあります。

カエルは自然の豊かさのバロメーター
 池や小川、田んぼだけでなく川の上流部にすむカエルもいます。その中でもよく知られているのが、カジカガエルです。鹿に似た美しい声で鳴くところから河鹿の名前が付けられたのです。万葉集にも、カジカガエルを詠った歌がいくつかみられます。もっとも、たんにカジカというとアユカケの別名をもつ魚を指してしまいます。上流には、この他にナガレヒキガエル、ナガレタゴガエル、ヤマアカガエルがいます。山の中に入れば、まだまだこうしたカエルをみることはできますが、街の中やその近郊では、多くのカエルが姿を消しています。田んぼに水を引く水路にU字溝が使われると、そこへ落ちたカエルのなかには外へ出られなくなるものもいます。耕地整理によって、かつては年中水が溜まっていた水田の乾田化も、カエルにとっては厳しい環境となっています。溜池の減少も深刻です。
水辺環境の保護というと、自然の川の保全が重要だと思われます。しかし、池や川だけが水辺環境ではありません。何千年という歴史のなかで育んできた水田耕作。そこでは米だけでなく、さまざまな生命も育まれてきたのです。日本のカエルの多くは、繁殖活動と稲作とが密接に関係しています。水田に水が入るころに産卵し、水田から水がなくなるころまでにはオタマジャクシからカエルへと変態を終えるのです。水を守るというのは、水を美しくすることはもちろん、多くの命を守ることでもあるのです。
標高約1,000メートル、小さな沢からグィウ、グィウというような声が聞こえてきます。タゴガエルです。声を頼りにいくつかの石をどけてみると、タゴガエルが出てきました。このカエルは、水が湧き出るような場所で、産んだ卵を守るようにして、石の下に隠れています。
この森の中にある池では、樹上生活をしているモリアオガエルが産卵します。このカエルは乾燥には強いのですが、森がなければ生きていくことはできません。森にはエサとなる虫がいっぱいいるからです。池の横の小さな水たまりには、ヤマアカガエルの卵がありました。山の田んぼからは、シュレーゲルアオガエルの声が聞こえてきます。山には、まだまだカエルの暮らせる環境が残されています。
でも、里へと下るにつれ、カエルの声も姿も少なくなっているようです。カエルの成育に適した水辺環境が減少しているからでしょうか。カエルの顔は、どこか哲学者を思わせる風貌をしています。失われつつある水環境について、どんな思いを巡らしているのでしょうか。
ナガレヒキガエル
ナガレヒキガエル卵
流にすむナガレヒキガエル(写真上)と卵塊(写真下)。オタマジャクシは水に流されないよう、口が発達し、岩に吸着して藻類を食べて育ちます。カエルになると、渓流の岩の上や川岸をすみ家とします。
(写真提供:三谷伸也氏)

長野県売木村モリアオガエル
沢
長野県戸隠村モリアオガエル
モリアオガエルは茨城県を除いた本州全域と佐渡島に分布しています。ただし、地域によって、表面に斑点のあるものとないものがいます。上は長野県売木村、下は長野県戸隠村のモリアオガエル。 水面に突き出た木の枝に作られたモリアオガエルの泡の巣。この泡の中に卵が産みつけられます。泡の表面は乾いて固くなり、内部が乾燥するのを防ぎます。この中でオタマジャクシとなり、雨が降ると泡の巣は崩れ、オタマジャクシは水中へ落下します。


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