水の話
 
江戸時代からあった魚を育てる森という発想
魚つき林とは、森林法で定められた保安林の一つで「魚つき保安林」が正式名称です。
魚つき林は明治30年に制定された旧森林法の保安林に関する条文に「魚附ニ必要ナル箇所」として明記され、昭和26年に改正された現行の森林法にも保安林の項目に「魚つき」として生きています。
その後、魚つき保安林は忘れ去られていきましたが、最近になって再び脚光を浴びています。

17種類もある保安林
 森林には水源の灌養(かんよう)機能をはじめとした多様な役割があることは知られています。中でも、特に人々の暮らしを守るのに重要な役割がある場所は保安林として、国や都道府県によって指定されています。山の中などを歩いていると「保安林」と書かれた四角い黄色の標識を見かけることがあります。こうした場所では、森林の機能が損なわれないよう、伐採が制限されたり、適切な管理が義務付けられています。
ところで、ひと口に保安林といってもその働きによって17種類に分かれます。この中で面積が一番広いのは「水源灌養保安林」で、水源地の森林が指定されています。これは雨水を蓄え、一種のダムのような働きをする森林の機能を守ろうというものです。次に多いのが「土砂流出防備保安林」で、しっかりと根を張った樹木や下草の働きによって表土の浸食、土砂の流出、土石流などを予防しようという森林です。この他にも風を防いだり、落石を防止したり、名所・旧跡のある風景を保存することを目的とした保安林もあります。こうした保安林のひとつが「魚つき保安林」です。
山林のもっているこうした多様な機能の重要性が再認識されている一方で山林の荒廃も進んでいます。理由の一つとして、国内の木材需要の低迷です。外国の安い木材の輸入が増えて国産材の価格が低下し、林業経営が成り立ちにくくなっているのです。さらに山村の過疎化が進み、厳しい山林労働に従事する人も減少しています。
そこで、山林の荒廃を守るために、これまでの木材生産を中心とした林業政策から、山林が持っている多様な機能を保全する方向へと転換が進められつつあります。例えば水源灌養や災害防止に重要な役割を持っているにもかかわらず、山林所有者だけでは十分な管理ができない森林を水源灌養保安林や土砂流出防備保安林へと指定する動きが進められています。また、最近特に注目されながら急速に失われつつある里山を保健保安林へ指定しようということも進められています。
そして、河川周辺の山林についても魚類の生息環境を守る場所として、魚つき保安林へと指定する動きが高まっています。

森林

水源灌養保安林 土砂流出防備保安林
水源灌養保安林 土砂流出防備保安林
魚つき保安林 保健保安林
魚つき保安林 保健保安林

保安林の種類

サケを守る種川制度
 いまではサケの人工ふ化は当り前となっていますが、このような養殖が行なわれるようになったのは明治時代以降のことです。しかし自然を利用した増殖といったことはすでに江戸時代から行なわれていました。新潟県の三面(みおもて)川では、下級武士であった青砥武平治(あおとぶへいじ)が「種川(たねがわ)制度」を提案して、時の藩主に受け入れられ、サケの増殖に成功しています。種川制度というのは、産卵のために川を溯ろうとするサケを、川の中に竹などで作られた籬(まがき)を立てて囲い込み、そこの場で自然産卵させようというものです。溯上期には、河口付近の漁が禁止されました。江戸時代には、こうした種川制度を取り入れていた藩が他にもいくつかありました。そして明治時代になると種川制度は全国に広がっていきました。
ところで、種川制度のとられていた川では、たんにサケを囲い込んで自然産卵させていただけではありませんでした。三面川の河口付近の山は、入山や伐採などを禁止する「御留山(おとめやま)」制度によって厳しく管理され、積極的に造林も行なっていたようです。
明治9年には、政府は「官林仮調査条例」を制定し、こうした沿岸部の森林を保護する方針を打ち出し、明治30年に制定した森林法の中に「魚つき保安林」として明記したのです。
サケの産卵場所は水がきれいで川底が細かな砂利のようなところです。山をきちんと管理すれば、河口が泥水で濁ることを防げます。また、緑陰はふ化したサケの稚魚の餌となる虫の供給源となったり、さらに直射日光を遮り魚の休息場所をも提供します。こうしたことから、魚つき林という考え方が生まれてきたようです。かつて、魚つき林は魚寄場、魚付場、魚隠林、魚取場山、魚看山、魚付山、網代山など地方によって様々な呼び方がありました。
岩船郡村上三面川鮭浚之図
岩船郡村上三面川鮭浚之図
(写真提供:村上市イヨボヤ会館)

村上藩(現・新潟県村上市)は三面川に種川制度を作りました。この制度によって本流をバイパスする河川を作り、故郷の川に帰ってきた鮭が安心して産卵できるようにしました。これは世界でも初めての「自然ふ化増殖システム」でした。
産卵


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