水の話
 
ひとつにつながる海と山

森が海を育て川が村を興す
 魚つき保安林の指定を受けている場所は、ほとんどが急な崖となっている海岸でした。このような場所は水深があり、藻の繁った岩場を持ち、魚が岸の近くにまで来ることができるからです。つまり、魚つき林といえば大半が海辺の森でした。海を持たない県の多くは、魚つき保安林の指定がなかったのです。ただし、滋賀県は海をもちませんが、琵琶湖の北西の湖岸に約5キロにわたり2,000本以上の松林があります。明治時代に、地元の漁師が魚つき林として植えたものです。
魚つき保安林はたんに魚が好む緑陰や、餌となる落下昆虫を提供するだけではありません。水の浄化や養分の供給という役割をもっています。山に降った雨は川を作り、やがて海へと至ります。山の養分が海の生き物を育てるのに必要なのです。もちろん、川の生き物にとっても、山は同じような役割を担っています。
海を持たない岐阜県に、魚つき林に指定された保安林はありません。そんな岐阜県に、馬瀬川に沿って細長い村域をもつ馬瀬村があります。村の面積の95%は森林で占められています。この村も日本の他の山村と同様、高齢化、過疎化が進んでいます。そうした中、村は平成6年に「森林山村活性化研究会」を設け、森と清流を生かした都市との交流に取り組みはじめました。そして平成7年に国土庁の「水の郷100選」に、林野庁の「水源の森100選」に指定されます。平成8年、研究会は「馬瀬川エコリバーシステムによる清流文化創造の村づくり構想」をまとめました。「森が海を育て、川が村を興す」というサブタイトルも付けられました。こうして馬瀬村は「魚つき保全林」の設定に取り組み始めました。
馬瀬川の渓流にはアユ、イワナ、アマゴ、ウグイ、カジカ、ヨシノボリ、カワムツ、オイカワ、ウナギなどが生息しています。
これまでの清流を守る取り組みでは護岸をコンクリートから、より自然に近いものに変えるなど、主に川だけに注目した取り組みがほとんどでした。しかし、馬瀬村ではさらに一歩踏み込み、川の水を生みだしている森林のあり方についても考えたのです。川と森は一体となっているのです。
琵琶湖岸
魚
日本の湖として最大の表面積を持つ琵琶湖には、琵琶湖固有の魚もたくさんいます。全国の川に放流される仔アユや、ふなずしの材料となるニゴロブナなどは有名です。そんな魚を守るために、ここにも魚つき林としての松林があります。

高まる山林所有者の意識
 保安林は法律に基づいた指定のため、伐採や土地の売買などが厳しく規制されてしまいます。そこで馬瀬村が設定したのは「魚つき保安林」ではなく村独自の「魚つき保全林」です。魚つき保全林に指定した森は国有地や村有地だけではなく、民有地もかなり含まれています。地主には村外の人もいます。最初から厳しい規制をかけるより、緩やかな形で森林の保護・管理を進めていく方が、こうした人々の協力が得られやすいからです。村人や山林所有者に、山林保護の重要性について自ら考え、意識を高めてもらうことが大切だという発想です。
日本の山林は、経済的価値が低下してきた一方で、環境的な価値は高まっています。しかし、山林所有者に環境的価値だけで山を守って下さいといっても、維持費や個人的事情などから簡単には了解を得にくいのも実情です。そこで現在まで行なってきた管理の中で、できる限り間伐をしてもらう、広葉樹は残してもらう、伐採する場合には皆伐せず小面積ずつ行なう、谷のそば数十メートル内の木はなるべく伐採を避けてもらうといった呼びかけを行なっています。こうした取り組みによって、徐々に村人の意識を高めてもらおうというのです。

岐阜県馬瀬村1 岐阜県馬瀬村2
岐阜県馬瀬村では、森や川の自然が持っている恵みや活力と美しい景観を利用して都市との交流を深め、豊かでしかも環境保全に立脚した村づくりを進めています。魚つき保全林の設定も、そうした取り組みのひとつです。


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