水の話
 
江戸時代からあった魚を育てる森という発想

魚つき林が持っている大切な効用
 山林には保水機能や水質汚濁防止機能があるということで、もっと山林を大切にしようという動きが盛んになっています。水質汚濁の防止は海の生物にとって住みよい環境を提供してくれることはいうまでもありません。さらに枯葉や生物の排泄物、死骸なども水の汚れの元の一つとなりますが、それを山林の微生物が分解します。それらが川を通って海に入りプランクトンの餌や海藻の養分となり、魚の餌や産卵場所などとなるのです。
最近、干潟の重要性が見直されています。河川から運ばれる汚れをバクテリアやプランクトンが分解し、それによって増殖したプランクトンなどを、ゴカイや貝、カニなどが餌とします。さらにゴカイや貝などを餌とする鳥が集まってきます。干潟は海の汚れを防いでくれるフィルターの役目を果たしているとともに、水鳥をはじめとした豊富な生物の成育場所となっているのです。
干潟の有無に係わらず、河川より流入のある沿岸部では、外洋に比べてプランクトンの量がはるかに多くなっています。植物性プランクトンや海藻は光合成によって成長・増殖します。光合成に必要なものは水と日光と二酸化炭素です。このとき窒素やリンがあれば、生物の餌となる養分がなくても成育・増殖が進みます。しかし、窒素やリンをプランクトンなどが体内に取り込める形にするには鉄が必要となってきます。しかし、鉄は水に溶けているフルボ酸鉄という形でなければプランクトンなどは体内に取り込めません。フルボ酸という物質は、森の中で枯木や落ち葉、動物の死骸などがバクテリアによって分解されるときに作られます。この酸による鉱物の分解を生物的風化と呼び、森林がもつ重要な役割となっています。このときフルボ酸は鉄と強く結び付き、鉄を水に溶けたままの状態にして海に運びます。魚つき林は、こうした物質の供給源としての重要な意味も持っているのです。


「熊川宿」を流れる前川
干潟は海に流入した汚れを浄化するフィルターの役目を持っています。川から流れ込んだ汚れは、干潟にすむ微生物によって分解され、微生物は小さな生物の餌となり、その生物はさらに大きな生物の餌となっていくという生態系が形成されています。

海から離れた山が海の魚を育てる
 海中にプランクトンや海藻が増えれば、それを餌とする魚介類が集まってきます。海藻は魚の産卵場所にもなっています。
魚つき林は、餌となる落下昆虫や安息場となる緑陰を提供したり、あるいは、土砂が流入するのを防ぐだけでなく、プランクトンや海藻を成長、繁殖させるのに重要な養分を供給しているのです。これまでの魚つき林の多くは、海岸べりの林がほとんどでした。しかし、さまざまな角度から魚つき林の効用が解明されていくにつれ、海から遠く離れた森林の重要性も唱えられるようになってきました。最近は海から離れた河川周辺で、魚類の生息環境を保護している森林にも魚つき保安林への指定が進められています。こうした森林は河川の魚だけではなく、海の魚の生息にとっても重要な意味を持っているのです。

森林 木の実 落ち葉
栗
森の中の落ち葉や木の実などは、やがて分解されて川の水とともに海に流れ、海の生物を育てる養分となります。しかも分解されるときに作られる酸が鉄と結び付くことによって、海藻やプランクトンの生育に必要な鉄を山から海へ運ぶ役目も果たしています。


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