水の話
 
日本の風景の中に溶け込んでいる生き物
ため池などでよく見かける薄紫色の花を咲かせるホテイアオイ。
名前から判断すると、いかにも日本に昔からあった植物のように思われますが、実は明治時代に鑑賞用として日本へ持ち込まれ、その後は水質浄化に役立つ植物として各地で導入されました。
しかし、いまでは、各地でさまざまな弊害を及ぼしています。同じように弊害を及ぼす生物が、日本にはたくさんいます。

季節の風物詩もいまや嫌われ者
 岸辺にたくさんの水草が漂っています。昔、金魚と一緒に水槽の中でよく見た金魚藻です。大きなホテイアオイもたくさん浮かんでいます。いずれも夏の夜店で売られていました。でも、子どもの頃に見たこれらの水草は、もっと小型であったような気がします。目の前の岸辺で見られるものは、とても金魚鉢の中には入りきれないほどの大きさです。
金魚藻は、現在であまり聞き慣れない名前かもしれません。金魚藻というのはマツモ、フサモ、カナダモなどの水草の総称です。コカナダモやオオカナダモはもともと日本にあった植物ではなく、ホテイアオイと同じように外国から入ってきた植物です。金魚鉢の中に浮かんでいただけならば、コカナダモもオオカナダモも夏の風物詩としての地位を確立していたのでしょうが、いまでは湖や池、水路などの厄介者となっています。
南米を原産地とするホテイアオイは、暖かい時期になると、約2週間で倍々の勢いで増殖していきます。成長が早いということは、それだけたくさんの水中の窒素、リンなどを吸収することになり、水質浄化に役立つ植物ということで、汚れた池などに入れられています。同じように、熱帯アフリカが原産のボタンウキクサも1枚の葉が30センチにも成長します。しかし、これらの水草は急速に成長するため、あっという間に池などの水面を覆い尽くすことになり、その結果、水面と空気とが接触する部分を少なくし、水中への酸素の供給を低下させます。さらに水中への光も遮るため、水中の水草は光合成ができなくなってしまいます。ホテイアオイやボタンウキクサ自身も酸素を消費するので、水中の酸素はますます減少し、もともとその水域にいた水草や魚に悪影響を与えます。コカナダモやオオカナダモも水中で大増殖することがあり、大量に水面に浮かんだり岸辺に流れついたりする厄介者です。やがて枯れてしまうと、せっかく吸収した栄養塩を水中に戻してしまいます。
ホテイアオイ ホテイアオイ(上)は繁殖速度が大変に早く「世界で最も厄介な水生雑草」と呼ばれています。
コカナダモ(下)の原産地は北米で、よく似たオオカナダモの原産地は南米です。日本で野性化しているのは雄株だけで、植物体の一部がちぎれ新たな株となって繁殖します。
コカナダモ

湖

身近な場所にたくさんいる外来生物
 最近ではアライグマ、ヌートリア、ヘラクレスオオカブト、ブラックバス、ブルーギル、ジャンボタニシなどの外来生物が、しばしばニュースなどで登場しています。
これらの生物がなぜ話題になるのかといえば、単に外国からやって来た生物だからというからではありません。外来生物というだけならば、実は、いたるところで見られます。例えばイネや野菜をはじめとした農作物のほとんどは、もともと日本にはなかった植物です。伝統的な「春の七草」の中にも外国起源の植物が含まれています。これらの植物は外来だからといって問題にされることはありません。むしろ、その由来を知って、驚く人が大半です。
外来生物というのは、人の手によって本来の生育場所から別の地域へ移動させられた生物のことで、しばしば移入生物とも呼ばれてきました。その中には、例えば稲作にともなって侵入した植物のように非常に古い時代にやってきたものもあります。このように古い時代に侵入した植物は史前帰化植物と呼ばれることがあります。人の手によって本来の生育場所から別の地域へ移動させられたということは、外国からの移動だけではなく、国内での移動も含まれます。そこで国外起源の外来生物、国内起源の外来生物に分けて対策がとられることもあります。
春を彩る可憐なオオイヌノフグリや河原を黄色く染める菜の花、四つ葉を探したシロツメクサ、初夏の水辺に咲くキショウブ、モンシロチョウ、秋の田んぼの畦道などに見るヒガンバナなどは、いずれもが外国起源といわれています。このように、道端や空き地、庭、田んぼの畦、川の土手、里山など、外国からやって来た生き物はいたるところで見られます。
池や川といった水の中はどうでしょうか。赤い色をしたザリガニは、昔から子どもたちに親しまれています。でも、温暖な地方で一般に見られるザリガニはほとんどがアメリカザリガニ。その名が示すとおりアメリカ合衆国が原産です。カメの中にも、最近は外国起源の種が増えています。
最近は水がきれいになって魚が増えた、という話もよく聞かれます。コイやメダカは増えた魚の代表格ですが、自然に増えたところもあるでしょうが、人が意図的に放流することで増えたところもあることは見逃せません。ワカサギも日本各地の湖などで釣りの対象となっていますが、自然に分布していた地域は太平洋側は利根川、日本海側は島根県より北の本州から北海道にかけての主に汽水域で、それ以南や内陸の水域にいるものは移植された結果です。

ボタンウキクサ
マンジュシャゲ
クレソン
ウォーターレタスの別名をもつボタンウキクサはビオトープ用の植物として売られていることもありますが、水辺の生態系には悪影響を及ぼしています。 里山には、外国起源の植物がたくさんあります。曼珠沙華(マンジュシャゲ)をはじめ、いくつかの呼び名をもっているヒガンバナはかなり古い時代に日本に入ってきた外国起源の植物で、救荒作物、薬、サツマイモ苗床の発酵材などさまざまな形で利用されてきました。 クレソンも水路などでよくみかけます。

風景


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