水の話
 
日本の風景の中に溶け込んでいる生き物

国内起源の魚も放流すれば外来生物
 外国起源の外来生物だからといって、タイワンザル、アメリカザリガニ、ブルーギルというように、国名が付けられたり外国語の名前のものばかりとは限りません。草魚(ソウギョ)、虹鱒(ニジマス)、布袋葵(ホテイアオイ)のように漢字の名前がつけられているものもたくさんいます。
外来生物というのは、外国から入ってきた生物だけを指すのではなく、本来の生息域から、人の手によって別の地域へ運ばれた生物のことです。例えばアユは、日本の多くの川で釣り客を集め、料理としても人気の高い魚となっています。しかし、琵琶湖で稚魚を捕り、全国の川へ放流して育った場合は、その水系では国内起源の外来生物とみることができます。
いま、日本には様々な外来生物がいますが、どの生物が外来であるのかは簡単に区別ができなくなっています。農作物のように、毎日の暮らしに欠かせないものもあれば、人の生活や生態系に弊害を与えるものもいます。つまり外来生物が問題となるのは、持ち込まれた時期やどこから来たのかということよりも、新しく持ち込まれた環境で、人々の生活や生態系にどのような影響を与えるのかということです。一般に外来生物のうち、新しい環境に定着するのは10%、さらに在来生物に悪影響を与えるのはそのうちの10%程度といわれています。

日本に定着した国外起源の外来生物は約2,200種
 外国から入ってきて定着に成功した日本の外来生物の中で、一番種類が多いのは植物で約1,500種です。次いで多いのが昆虫で約400種、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類などの脊椎動物は約130種、その他の生物も含め、日本には約2,200種もの外来生物がいます。なぜ、こんなにも多くの外来生物がいるのでしょうか。植物の場合は、種子や苗木などとして人が積極的に移動させるものが多くありますし、人や荷物にくっついて運ばれる場合もあります。昆虫などの小動物は木材や穀物などの輸入源材料に紛れ込んで来ることがあります。植物や昆虫はこうして知らないうちに日本の中に入り込むため、外来生物の中でも数が多くなっています。
ところが脊椎動物になると、ネズミのように貨物船などに紛れて入ってくる場合もありますが、むしろ人が意識的に持ち込む例が増えてきます。特に魚については、漁業の振興、遊漁資源、生物防除といった面から国内に持ち込まれたものもかなりの数にのぼります。ソウギョ、ハクレン、ニジマス、カワマス、ブラックバス、ブルーギルなどがそうした例です。海洋の魚としてはタイリクスズキがいます。
これらの魚が国内へ導入されたのは明治以降です。とくに戦前は、漁業の振興や食糧増産という大義に異を唱えるということはありませんでした。戦後になっても、他の生物への影響にも、あまり関心は払われることはなかったのです。言い換えれば、それだけ自然が豊かな時代であったのかもしれませんし、深刻な影響が目立たなかったのかもしれません。
ところが、1992年にリオデジャネイロで『地球環境サミット』が開かれたことを境にして、外来生物に対する関心が世界で高まってきました。この時に「生態系、生息地、もしくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御もしくは撲滅する」という内容を盛り込んだ生物多様性条約が採択され、日本も署名をしています。たとえ善意や公的に持ち込まれたとしても、在来の生物の存続を危ぶませる外来生物に対しては、何らかの対策が必要になってきたのです。

川岸 イタドリ
日本ではお馴染みの植物も外国では害草となっている場合があります。イタドリは19世紀にオランダの医者シーボルトが持ち帰ったのがヨーロッパに移入された最初とされています。最初のころは園芸用としてもてはやされましたが、いまでは川岸を覆い尽くす害草となっています。


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