水の話
 
水中で繰り広げられる生き物たちの闘い

釣りと外来の魚
 また、国外起源の外来魚による問題もあります。ニジマスは、その名の響きからはいかにも日本の渓流魚といった印象を受けますが、100年以上前に北アメリカ西部から導入された外来魚です。食生は動物食で、在来の小型魚種への影響も心配されています。しかも、在来のイワナ、ヤマメ、オショロコマより遅れて産卵行動を取るため、在来魚の産卵床が掘り返され孵化できなくなってしまいます。イワナの仲間のカワマスも北アメリカ東部が原産の外来魚です。在来のイワナ、ヤマメ、アマゴなどとエサなどをめぐって競合しますが、それ以上に心配されているのが在来のイワナとの交雑です。
湖沼や平野部の身近な水域で見られるブラックバスも、北アメリカ原産の魚であることはよく知られています。食べておいしく、釣って楽しい魚としてブラックバスが日本に初めて移植されたのは、神奈川県の芦ノ湖で1925年でした。1970年代ごろから日本各地の池や湖で確認されるようになり、現在では全都道府県で確認されています。ブラックバスはルアー釣りの対象として非常に人気が高く、漁業権魚種に指定して有効利用をはかる水域がある一方で、食物連鎖の上位に位置する魚食性が強い魚であるため、生態系に大きな影響を与えることが懸念され、ほとんどの都道府県で移殖放流が禁止されるようになっています。現在、この魚をめぐっては、釣り人や関連業者・業界など積極的な利用に期待する受益者と、自然保護の立場から現状を批判する立場との間で、さまざまな議論があり、その適正な管理・利用のあり方が模索されています。
ブラックバス
ブラックバスは1歳で全長約18センチ、2歳で約25センチに成長し、大きなものでは70センチ以上に達します。大人の握りこぶしが入ってしまうほどの大きな口から、オオクチバスの名前が付けられました。ルアー釣りの対象魚として最も人気の高い魚となっています。

らいぎょ カムルチーは70~80センチに成長し、ときには1メートルを超えるものもいます。一般にはライギョの名前で知られ、大物釣りの対象となっています。
(写真提供:清水和行氏)

水の美しさとともに大切なこと
水辺 野山や水辺に野生の動植物がたくさんいれば、健全な自然が保たれているように思われがちです。しかし、いまの日本ではこれまでの自然環境の破壊に追い打ちをかける形で、さまざまな侵略的外来生物の影響も目立つようになり、在来の多くの生物が存続の危機に瀕しています。自然の「豊かさ」とは、目につく生き物の数の多さという量的な側面だけではなく、その環境に生息していた生き物がどれだけたくさん保たれているかという質的な側面にも注目することが大切です。池や川の中を覗いたとき、そこに広がる生物たちの世界が地域性にとぼしく単調で、特定の種類だけが目立つ単純なものであったならば、数としてどれだけ多くの生物がいたとしても、それが積極的に守るべき豊かで美しい自然と呼べるのでしょうか。
水質がそこにすむ生き物の種類を左右することはよく知られていますが、一方で、生き物たちの食物連鎖の関係のあり方が、水質にまで波及的な影響を与えることにも考え及ぶことが求められます。自然を大切にしようとするのであれば、さまざまな生き物たちの調和的で多様な関係を回復・維持することが必要です。そして、このことが持続性のある豊かで美しい水辺を取り戻すことにもつながるのです。


メニュー1 2 3 4 5 6|次のページ