水の話
 
湿地の生き物と人との関わり

人が手を加えて出来上がってきた里山
 自然の状態のままで生育している植物群落を放置しておくと、次第に別の植物に移り変わっていきます。例えばよく手入れされていた庭も、何も手入れせずに放置しておくと、やがて雑草が生い茂り、それまではなかった樹木が生えて庭の様相が変わってくることがあります。自然界でもこれと似たようなことが起きます。
一般に火山の噴火や山崩れ、洪水などで裸地となった場所で最初に生えるのは1・2年生の草です。その後多年生の草にとって代わり、さらに日の光をより好むアカマツやコナラなどの樹木が成長します。樹木の成長が進むと地面にササや下草が繁り木の密度も高まってきます。こうなると日の光を好む樹木が種を落としても発芽、成長できなくなり、日の光をそれほど必要としなくても育つことができるシイやカシの林へと移り変わります。自然の状態で放っておくと、それ以上に植物相は変化しなくなり安定します。
日本の低地では、もともとシイ類やカシ類といった常緑広葉樹の森となった状態で安定していました。これらの木の特徴は葉の表面がロウ状のクチクラという物質で保護されており、日の光を受けるときらきらと輝きます。冬になっても葉を落とさず、いつも緑の葉をたたえています。
ところが伐採や山火事などでシイやカシの林が失われると、再び草が生え、やがてコナラやマツの林へと変化していきます。こうした山へ下草刈りや炭焼きなどで人が入ることによって、林の中は常に日が差し込む状態が保たれ、コナラなどが種を落としても発芽、成長しやすい状態が持続します。その結果、植物群落はシイやカシへと移り変わることなく変化が止まった状態となります。

里山の風景
里山の風景
昭和30年代を境にして、里山の風景も随分と変わりました。しかし最近はかつての里山を復元しようという動きが各地でみられます。


変化する里山の環境
 里山で畑の肥料や燃料を取ることがなくなると、落ち葉がどんどん積もり、それまで日の光を浴びて発芽、成長していた草花は育たなくなってきます。コナラなどが種を落としても発芽、成長できなくなり、植物相は再び変化しはじめます。里山を利用していた人間の側から見れば、変化する山は荒れていくように思われます。しかし、自然の側から見れば当たり前の変化です。植物相の変化によって卵を産みつけ幼虫のエサとなっていた植物や花の蜜がなくなれば、それまですんでいた昆虫はいなくなります。昆虫をエサとしていた鳥もすめなくなってきます。こうして里山の動物たちは、そこから次第に姿を消していきます。里山は人が入り下草刈りや炭焼きなどで適度に利用することによって、一定の条件で変化が止まっていた状態だったのです。変化がなければ、そこにすむ動物にとっては安心して繁栄できる場所となっていました。
湿地が水田に変化したとき、湿地にすむ動植物にそのまますみ場所を与えることになったのと同じことが里山でも起きたのです。そして何百年以上にわたり里山は貴重な自然の宝庫となって維持されてきたのです。
里山を歩いてみると、かつて田んぼがあった場所や林道のあった所で湿地を見かけることがよくあります。こうした湿地をそのまま放置しておけば、やがて落ち葉に埋もれ、草や樹木に覆われ、何十年か後には消滅していく可能性を持っています。


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