水の話
 
湿地の生き物と人との関わり

何十年単位で生成、消滅をする里山の湿地
湿原 地表に降った雨は地下水となり、不透層に突き当たるとやがて地上に湧き出し、丘陵地にも谷がつくられます。山の中に豊富な水が貯えられている証拠です。林道やトンネル工事現場などでも、排水作業がよく行われています。つまり山間部では崖崩れなどによって小さな湿地が形成されることがよくあるのです。また、丘陵地にため池をつくれば、その周辺部にも湿地は形成されます。田んぼとして開墾した跡も、やがては自然に近い湿地となります。しかしこうした湿地は小規模のものであり、周囲からの植物の侵入、落ち葉の堆積などによって何十年という単位で消滅、生成が繰り返されます。こうした点が尾瀬ヶ原や釧路湿原のように、何千年から何万年という単位で形成される湿原とは異なります。
里山の中には、こうした湿地がたくさんあったのです。そして里山が放置され、柴刈りなどが行われなくなるとともに湿地周辺に木が茂り、薮となって湿地が消失していく速度が早まってきました。また山間部の道路整備などによって水脈が切られると、周辺の湿地へ水が供給されなくなり、やはり湿地は消失していきます。

長ノ山湿原
愛知県の山間部にある長ノ山湿原。
ここは比較的低層湿原に近い湿地だといわれています。

動植物の宝庫にもなっている身近な場所
 湿地が形成されている場所は、もともと栄養豊かなところではありません。こうした場所では貧栄養に耐えられる植物が繁殖しやすくなります。モウセンゴケやミミカキグサ、イシモチソウなどは湿地を代表する食虫植物です。貧栄養の場所のため小さな虫を捕まえることによって自らの栄養にしているのです。絶滅の危機にある植物というと、高山や離島、広大な湿原などに生えている珍しい植物が多いように思われますが、実際には小さな湿地や里山など、かつては身近なところでごく普通に見られていた植物が絶滅の危機に瀕していることが多いのです。
丘陵地の湧水湿地は必ずしも人々の生活と密着したものではありません。丘陵地の湧水湿地のある場所は木が繁茂していないため、オオタカやサシバといった猛禽類には見通しが効き、えさが見つけやすく、飛翔にも都合がいい場所でした。しかしラムサール条約で定義されているような水鳥の保護に重点が置かれている湿地とは違い、関心もそれほど高いものにはなっていません。
里山の湧水湿地は田畑を潤し、人々の暮らしの身近なところにある水源地として当たり前の存在でした。そのため、あまり意識されることはなかったのです。水辺環境とそこに生きる動植物を守るには、人と自然との関わり方をもう一度問い直さなければならない時代になっています。


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