水の話
 
王者の風格を備えた磯の生き物

ミキサーでも砕けない堅い顎
 イセエビの特徴は堅くて棘のある体と長い立派なヒゲです。このヒゲが破損していると商品価値が著しく低下します。そのため、ヒゲの破損したイセエビは市場に出回ることなく、地元の漁師が自家消費したりや旅館などで利用されます。このヒゲは正確には第2触角と呼ばれ、敵に襲われそうになったときの武器として用いたり、周囲のものを探ったりする時に使われます。2本の第2触角の間にはさらに第1触角と呼ばれる短めのヒゲがあります。第1触角は第2触角に比べて柔らかく、先が2本に分かれており、味や匂いを感じ取るセンサーの役目を果たしています。
エサは二枚貝や巻貝、フジツボ、ウニ、カニなど海底にいる生物です。昼間は岩礁の隙間などに隠れ、夜になると這い出して海底を歩き回ります。エサを見つけるとその上に覆いかぶさり、5対の足でしっかりと抱え込むようにして食べます。水族館でもイセエビと同じ水槽で飼育しているカニや貝が食べられてしまうこともあります。
口には堅い大きな顎があり、貝殻やカニの甲羅なども砕いてしまいます。口の中を見ると人間の奥歯に似た部分があります。これで堅いものを砕き、すり潰すようにします。イセエビが脱皮した殻をミキサーにかけて砕いても、大顎の堅い部分は砕けずにそのまま残ってしまいます。
大顎
堅い貝殻も平気で噛み砕いてしまう大顎。写真はニシキエビですが、イセエビの仲間はどれも同じような堅くて丈夫な顎を持っています。(鳥羽水族館)


天敵はタコ
 堅い殻と丈夫な顎を持ち、無敵とも思われるイセエビですが、意外にもタコが天敵です。そこでタコを使ったエビ漁というものもありました。竿の先にマダコをくくり付けて水中へ入れます。イセエビがいそうな岩礁の隙間などでそのタコを揺すると、イセエビが驚いて飛び出してきます。それを網ですくい獲るという蛸脅(たこおどし)漁です。また海女が素手で捕まえるということもあったようですが、現在ではほとんどが刺網による漁となっています。
イセエビは成体になってからも年に1回程度の割で脱皮をしながら大きくなっていきます。脱皮は頭胸部と腹部の間の背面から行います。脱皮したばかりのイセエビは甲羅がまだ柔らかいため、外敵に襲われることもあるようです。しかし、折れたり取れたりした足などは脱皮をすることによって、再生されます。海底では無敵のようなイセエビにも弱点はいろいろと持っているようです。それでもイセエビは磯の生態系の中では上位に位置しています。イセエビがたくさんいるということは、他の生き物も豊富であるということにつながります。

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