水の話
 
悠久の時を越えて光り輝く海

閉鎖性水域が与える影響
 最近はカキの身が以前に比べ小ぶりになっているという気になる話があります。海中の酸素が少なくなったためではないかという漁師もいます。イセエビが獲れる伊勢志摩の海は伊勢湾の外側に広がりますが、伊勢湾の水質が影響を与えているのかもしれません。伊勢湾は東京湾や瀬戸内海と同様に閉鎖性水域です。閉鎖性水域の水は外洋の水と簡単に入れ替わらないため、一度汚れるとなかなかきれいにはならないといわれています。もちろん水が全く入れ替わらないということではありません。伊勢湾には木曽三川をはじめとした河川から大量の淡水が流れ込みます。その量は毎秒約600m3にもおよぶといわれています。しかし海水と比重の軽い淡水はすぐに混じりあうことはありません。伊勢湾に流れ込んだ淡水は汚れを海底に沈み込ませながら、徐々に湾口へと流れていきます。伊勢湾へ流れ込んだのと同じ量の水が湾外へ排出されるのですが、その間に伊勢湾は汚れていくのです。こうして汚れた伊勢湾の水が、やがて湾の外へも排出されます。
伊勢湾の汚れの大きな原因は生活排水です。これらの汚れは海藻やプランクトンを育てる栄養にもなりますが、栄養分が増え過ぎるとプランクトンを大量発生させる原因となってしまいます。プランクトンが大量発生すると赤潮やアオコの原因となってしまいます。
一方、最近は自然保護への関心が高まり、河川の汚れもひと昔前に比べるとかなり改善されています。ところが閉鎖性水域の汚れはなかなか改善が進みません。理由は生活排水などに含まれている窒素やリンです。水の汚れは一般にBODで表されます。そしてBODを除去しても窒素やリンが過剰に含まれていると、これらが植物プランクトンを大量に育てる栄養分となり、水の汚れの原因となってしまうのです。

富栄養化
閉鎖性水域は窒素・リンがたまりやすく、富栄養化が進みます。


未来へ受け継ぐ豊穣の海
 リアス式海岸の美しい伊勢志摩の海は今も昔も豊穣の海であることに変わりありません。様々な種類の魚介類がこの海で育ち、海を生活の場とする人々に豊かな恵みを与えてきました。イセエビもそうした豊かな海からの恵みの一つの象徴です。
伊勢志摩の一部の地域では注連縄にイセエビをくくりつけ魔除としていました。正月の鏡餅の上にイセエビを飾る風習は日本のかなり広い範囲で見られます。鏡餅は歳神様へ供える神饌(しんせん)として、その年1年の平和と安寧への願いが込められていました。長く立派なヒゲを備え、堅い棘と甲羅で覆われたイセエビは、人々の暮らしを守るのにふさわしい姿です。しかし、豊かな海を汚していくと人間がイセエビを守らなければならなくなってきます。これからも豊穣の海であり続けるためには、海を汚れから守らなければなりません。

リアス式海岸
伊勢湾口から外洋にかけての三重県側はリアス式海岸で知られています。英虞(あご)湾や的矢(まとや)湾は真珠やカキの養殖が盛んなところです。ただ、近年はしばしば赤潮の発生などが見られます。

相差(おうさつ)漁港(上)と国崎(くざき)漁港 黒潮洗う太平洋
伊勢志摩の海には豊かな漁場があり、たくさんの漁師が海で生計を立てています。
写真は相差(おうさつ)漁港(左上)と国崎(くざき)漁港(左下)。
志摩半島の安乗(あのり)灯台から眺める黒潮洗う太平洋(右)。


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