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海の上はまだ闇に包まれています。風は強く小さな漁船が大きく揺れるたびに、港の灯りが波間に隠れます。東の空が白んできたころ、目標のブイが見えました。漁師は船が流されないよう、巧みに舵をさばきます。網を船に引き上げるといろいろな魚に混じってイセエビもかかっていました。 |
寒風の中で早朝に引き上げる刺網
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イセエビ漁は産卵が終わった11月になると解禁になります。細長い網を海中にカーテンのように垂らして、そこに絡まった魚を獲るのが刺網ですが、イセエビの場合は刺網を海底に着地するように仕掛けます。幅約2m、長さ約180mほどの細長い網です。刺網は夕方に仕掛け、翌朝に引き上げます。
11月にもなると温暖な気候の三重県伊勢志摩の海にも冷たい風が吹き、波も荒れます。船の中にも波しぶきが飛び込んできます。港を出て約20分、船は速度をゆるめます。前日の夕方に仕掛けた刺網の近くまで来たようです。サッカーボールほどの大きさのブイが見えました。先端にカギのついた竿でブイを船上に引き上げ、巻き上げ機で網を漁船に引き上げます。いろいろな魚がかかっています。漁師はイトマキアジ、コチョウダイ、イカ、カレイ、アジなどの名前をあげます。サザエの貝殻に入ったヤドカリもいました。ときどき、大きな石が網と一緒についてきます。この石は網が海底に着地して、流されないようにあらかじめ付けておいたものだそうです。1本の刺網を引き上げるのにかかった時間は約15分、この日は4本の網を引き上げ、5尾のイセエビが獲れました。
港に戻ると、網から魚やイセエビをはずす作業が待っています。この作業は、陸にあがって行う場合もあれば、船上で行うときもあります。魚などをはずした網は、海藻やヒトデなどを取り除き、破れた箇所を繕い、夕方には再び漁場に仕掛けます。 |
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イセエビ漁は冬場に行われます。暗いうちに港を出た船が漁場につく頃に太陽が昇りはじめます。 |
見えない海中の様子がわかる漁師
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漁師が網を仕掛ける場所はそれぞれの漁協によって取り決められているようです。魚場をくじ引きや順番で決めるところもあれば、それぞれの漁師が自分で決めた漁場を持っているところもあるようです。イセエビがすんでいるのは海底が岩礁になっているところです。しかし、海の上からは海底の様子は見えません。
海の上には目印となるものがありません。そこで陸地からの距離と方角から岩礁のある場所の上にいるかどうかを割り出します。もちろん計測器などは使わずに、長年の経験で判断します。網を仕掛ける場所の水深は約20m、岩礁の真上から網を投入しても、水中ではまっすぐ下に落ちていくとは限りません。しかも満潮や干潮の影響で潮はいつも動いています。潮の動きによって網は岩礁から遠く離れた場所に流されてしまうことも考えられます。潮の動きが止まった時を見計らって網を入れるのです。このときを「潮がたるんだとき」と漁師は表現します。
引き上げられた刺網をよく見てみると、網は一重ではなく三重になっています。目の粗い網と網の間に、少し目の細かい網がもう1枚挟み込まれています。外側の編み目ひとつの大きさは10数cm以上あるようです。内側の編み目はその半分くらいの大きさです。編み目をあまり細かくし過ぎると十分成長していないイセエビなどがかかり、乱獲になってしまいます。かといって編み目があまり大きすぎると編み目の間から魚やイセエビが逃げてしまい漁獲量が減ってしまいます。
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漁船に取り付けられた滑車のような巻き上げ機に網を乗せて刺網を引き上げていくと、絡まりついた魚に混じってイセエビも上がってきます。港に戻って絡まりついたイセエビのヒゲなどを痛めないように網から外す作業も大変です。 |
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